良好な人間関係を構築したり、他者とうまく協働するためにはこの「社会性」が求められます。社会性は単に社会に出て企業で働くために必要なスキルだけではなく、人生そのものを豊かにするために必要なスキルになります。
本記事では、社会性の概要や子どもたちの社会性を伸ばしていくための方法について解説します。
そもそも社会性とは何か?

社会性についての定義は曖昧であり、明確な定義づけはありませんが、一般的には、「人が社会や集団で適応するためのスキルや特性を指す全体の概念」と考えられています。
その中には、以下のような素質も含まれています。
- 感情の認識や表現:自分や他者の感情を適切に捉え、表現する能力。
- 自己調整:感情や衝動をコントロールし、適切な行動に結びつける能力。
- 共感:他者の感情や立場に理解を示し、適切な反応を行う能力。
- 人間関係の構築:他者との関係を形成・維持する能力。コミュニケーションや問題解決のスキルも含まれます。
- 意思決定:情報を基に正確な判断や決定を行う能力。
このようなスキルは「社会情動的スキル」と呼ばれています。
これらは、私たちの日常生活や学校、職場での円滑な人間関係形成に不可欠な要素といえるでしょう。以下では、子どもたちの社会性がどのような段階を経て成長していくのかについて解説します。
子どもの社会性の発達時期

子どもの社会性の発達は、脳の成熟と深く関連しています。スイスのシュナイダー博士の研究によると、子どもの社会性の発達は生まれたときから始まり、以下のようなステップを踏んで発達します。
- 生後〜生後6ヶ月:他者の顔や目を意識的に注視し始める
- 生後6ヶ月〜1歳:感情を他人に表現し始める
- 1〜3歳:友だちとの遊びを通じて、感情の理解が発達する
- 3〜4歳:友人関係がより深化し始める
- 4〜7歳:他者の感情を推察する能力が発達
- 7~10歳頃:社会からの評価が気になり始める
これらの段階を経て、大人になっても良好な人間関係の構築や、他者との協業ができるようになります。
子どもの社会性と学校での成績や将来のキャリアへの影響

子どもの社会性を高めることで、以下のような影響があると考えられています。
社会情動的スキルが学業や仕事に良い影響を与える
社会情動的スキルの重要性が注目されるきっかけとなったのはノーベル経済学賞受賞者であるアメリカのジェームズ・ヘックマン教授の提唱です。
ヘックマン教授が行った研究によればは幼児教育における社会性の成長が幼児期以降の基礎学力や大人になった際の年収などに影響を与えることを示唆しています。
先ほど紹介したような社会性に関するスキルが備わっていると、例えば、学校でわからない問題についても、何がわからないのかを的確に質問することができたり、友達に手伝ってもらったり、また、遊びたい気持ちを抑えて宿題を終わらせることができるようになり、結果として成績が伸びる可能性が高いと考えられます。
スキルがスキルを生む
また、上記のヘックマン教授の研究を元に社会情動的スキルについてまとまられたOECD2015のレポートによれば、一つの社会情動的スキルが高まると、算数や英語などの「認知スキル」の発達も促進されるとされています。
例えば、自己調整ができる子どもは勉強に集中しやすく、算数や英語のような認知スキルも向上しやすくなります。そして、社会情動的スキル(非認知能力)は幼児期以降、大人になっても伸ばすことが可能とされています。
所属する組織などで応援される人になる
社会情動的スキルをつけることで、職場でも上司をはじめ、周りのメンバーから協力を得やすく、業務上の問題や対立が生じた際にも、チーム内の調整や対立の解決が円滑に行えます。
さらに、チームの中でのリーダーシップを自然と発揮し、メンバーのモチベーションを高める役割も果たします。その結果、業績や収入アップ、昇進につながる可能性も高まると考えられます。
子どもの社会性の発達をサポートするための親の役割とは?

以下では子どもの社会性を伸ばすために、親として具体的にはどのようなサポートができるのか、そして、どのような態度で接すればよいのかについて解説します。
しつけによって自己調整能力を育てる
適切なしつけをせずに、わがまま放題を受け入れていては子どもの自己調整能力は育ちません。ある程度、場所や空気を読み自らを律することができるように「しつけ」をしてあげることも非常に重要です。
例えば、公共の場でのマナーや時間の管理など、基本的なルールを教えることで、子どもは自己調整能力を身につけ、社会生活での適応力を高めることができます。
日常生活でともに楽しんでみる
OECDが公表している論文によれば、家族と一緒に行動する機会の多い子どもたちは、これらの社会的スキルを高める傾向にあるとされています。
家族と一緒に話す、遊ぶ、本を読む、夕食を共にするなどの日常的な活動は、子どもの感情の理解、共感、自己制御、そして他者との良好な関係構築に役立ちます。
子どもに寄り添う
兵庫教育大学の研究によると、短い接触時間であっても子どもと積極的にコミュニケーションをとり、 愛情表現や子どもの自立に向けた支援を行うことで、父親は子どもの社会性の発達を促進する可能性があるとされています。
また、親が子どもの勉強を手伝ったり、文化的な活動(美術館に連れて行ったり)を行うことにより、子どもの自尊心が向上することも示されています。
地域のボランティア活動で実践
米国では、サービス・ラーニングといった奉仕活動(サービス)と学習活動(ラーニング)の実践を統合させた学習方法で、生徒が学校で学んだ知識を地域社会で応用し、社会貢献活動を行うことがよくあります。
このような地域活動を奨励することで、子どもの社会的スキルや市民的態度を向上させることが期待できるとされています。実際、Melchior (1999)の研究によれば、サービス・ラーニングに参加した生徒は、文化的多様性の受容やリーダーシップ、ボランティア行動を向上させ、危険行為を減少させていたことが示されています。
参考:
Hiroko Ikesako and Koji Miyamoto, OECD, 2015 FOSTERING SOCIAL AND EMOTIONAL SKILLS THROUGH FAMILIES, SCHOOLS AND COMMUNITIES, Summary of international evidence and implication for Japan’s educational practices and research, OECD Education Working Paper no. 121
秋光惠子・村松好子.(2011).父親の関わりが児童期の社会性に及ぼす影響.兵庫教育大学研究紀要,38,51-61
まとめ
子どもの社会性を育むことは、学業はもちろん、将来の職場や社会生活全般においても、子供の人生に数多くの良い影響をもたらします。家族での共有活動や学校のプログラムへの親子での参加、良いところをほめてあげるなど、日常を大切にしたコミュニケーションが子どもの社会性を強化していきます。
そして、何よりも、子どもが失敗した時や困難に直面した時に、温かくサポートし、共に乗り越える姿勢を見せることで、子どもの自己肯定感や社会性を強化する手助けとなることでしょう。
また、適切なしつけを通じて自己調整能力を育てることも、子どもが社会で成功するための重要な要素です。この記事を参考にして、日常の中で少しずつ実践していきましょう。