子どものコミュニケーション

自己主張が強い子どもに対して、どう対応するべきか?

社会に出ると、自分の意見や希望を周囲の人たちに伝える、つまり適度に自己主張をすることで、他人と協力することができ、生活していくことができるようになります。

しかしなかには、自分の欲求を過度に主張する人がいます。いわゆる我の強い人は、周囲との調和を乱し、時に反感を買い、孤立することにもつながりかねません。

多くの親御さんは、「子どもたちには仲間とうまく協力関係を築いてほしい」と思っています。

一方で、自己主張が強くなりすぎないようにするには、どのようにするのが良いのか、よくわからない方もおられるでしょう。

そこで今回の記事では、自己主張が強くなることによって、子どもの将来に与える影響や子どもの我が強くなる原因、そして自己主張が強くなりすぎないようにするための方法について解説します。

自己主張が強い子どもにみられる特徴

まず、自己主張の強さに対する感じ方は、国や文化によって異なると言われています。

比較的、均一な文化的背景があり、「謙遜」や「調和」を大切にする日本では、空気を読んで発言することが好まれ、強すぎる自己主張は敬遠される傾向があります。

一方で、多様な文化が交じり合うアメリカや、競争の激しい中国などでは、周りの人たちからの理解を得るため、あるいは自分の立場を確保するために、自己主張は必要なことでもあります。

つまり自己主張がある程度必要なものであることは、国ごとで違いはありませんが、国や文化が異なると、許容される自己主張の強さに違いが生じます。

英語では適切なレベルの自己主張はアサーティブネス(assertiveness)、そして行きすぎる自己主張はアグレッシブネス(agressiveness)と呼んでいます。どちらのコミュニケーションスタイルも、自分の立場を確立し、自分の意見を述べることを意味しています。

アサーティブネスは、自信に満ち、率直であることが重要ですが、無礼であったり攻撃的であったりすることはありません。建設的な批判に耳を傾け、他人のアイデア、見解、意見を尊重するということでもあります。

一方で、アグレッシブネスのように、自己主張の程度が強すぎる子どもには、以下のような特徴があります。

  • 自分の意見が通らないと、意地になってでも主張を通そうとする
  • 主張を通そうとすると、激しい感情が混じることがある
  • 他人からの指摘があるにもかかわらず、はっきりと主張を通す子どもは、負けず嫌いな特徴がある
  • みんなの前で涙を流して主張を通すことがある
  • 自分が正しいと思うあまり、自分の考え方をまわりの人に押し付け、他人を否定してしまうことがある
  • こだわりが強く、臨機応変な対応が苦手などの特徴がみられる

このような、周りの人への理解や配慮にかけた言動は、自己中心的ととられることもあるでしょう。

自己主張が強いことが子どもの将来に与える影響

自己主張が強いことで、子どもの将来にどのような影響を与えるのでしょうか?

幼児期に自己主張の強さ(アグレッシブネス)が学業面に与える影響を調べたアメリカのペンシルバニア州立大学心理学のBierman博士らの研究によると、自己主張が強い(アグレッシブ)ことは、将来の成績に悪い影響を与えるとされています。

もちろん学校の成績にはさまざまな因子が影響しますので、必ずしも自己主張が強いことだけが原因というわけではありません。

しかし、自己主張が強いと、人の意見に耳を傾け、ときには自分の過ちを認め、より良い考え方を身につけていくことも難しくなりますので、視野が狭い、偏った考え方に固執してしまい、結果として、成長が止まるということが起こり得るのでしょう。これは勉強に限らず、スポーツなどにも言えます。

また、自己主張が強いと、協調性にも欠けますので、友達を作ることが難しくなり、集団のなかで孤立してしまう危険性があります。

これは本人の成長の機会を損ない、進学や就職などの局面で、ネガティブな影響を与えることにつながりかねません。

参考:

Bierman, K. L., Coie, J., Dodge, K., Greenberg, M., Lochman, J., McMohan, R., Pinderhughes, E., & Conduct Problems Prevention Research Group. (2013). School outcomes of aggressive-disruptive children: Prediction from kindergarten risk factors and impact of the Fast Track Prevention Program. Aggressive Behavior, 39(2).

子どもの自己主張が強くなる原因とは

ではなぜ子どもの自己主張が強くなってしまうのでしょうか?

フランクリン&マーシャル大学のSu博士によると、強い自己主張(アグレッシブネス)の原因には、子どもたちが幼少期に経験する親の言動や子育てへの姿勢、友達やメディアの影響、遺伝的な要因などを挙げています。

親と子どもの関わり方によるもの

親との関わり方は子どもの言動に大きな影響を与えます。例えば、親が激しく主張し合う環境で育った子どもは、そのようなコミュニケーションが普通だと捉え、自身も強い主張をすることが普通だと感じるようになります。

これは、子どもが普段目にしている家庭内のやり取りが、行動様式の模範となるためです。

逆に親が子どもに無関心であると、子ども自身が激しい自己主張をしても親から否定されないため、主張し続けることに問題はないと子どもが感じることにつながります。

さらに親から認められる経験がないと、自己肯定感が低くなり、自分を認めてもらうことを目的に、強い自己主張をしてしまうこともあります。

子どもが健全なコミュニケーションスキルを育むためには、親や大人が適切な関心を持ち、子どもの自己主張を適切に導くことが重要です。

周囲の大人との関わり方によるもの

また親だけでなく、周囲の大人たちが子どもを褒めてばかりで誤りを修正しないと、子どもは全てにおいて自分が正しいと考えるようになり、誤りを認めることが難しく、自尊心が過度に高くなってしまいます。

例えば、子どもが何かを間違えた時に、その間違いを指摘せずにいつも「すごいね!」とだけ褒めると、子どもは自分の行動が常に正しいと思い込むようになります。

友達のおもちゃを勝手に使ったり、自分の意見だけを強く主張したりする時に、それが間違っていると指摘されなければ、子どもは自分の行動に問題がないと考えてしまうのです。

その結果、自分の主張は正しく、周囲の人の意見を認めない、主張の強すぎる子どもが育っていくことになります。

子どもの脳の発達によるもの

マックス・プランク認知脳科学研究所によれば、子どもたちの主張が強く、いわば利己的な行動をするのは、正しいことと間違ったことを理解できないことによるものではなく、自分の欲しいものや、やりたいことに対して素直な反応を示しやすいことによるものである。と結論づけられています。

たとえば、公園でサッカーをしている時に、どの子がボールを蹴るかで争いが起こることがあります。このような場面では、子どもたちは自分がボールを蹴りたいという強い願望に動かされ、友達の願望を考慮しないことがあります。

しかし、これは子どもたちがまだ感情のコントロールや協調性を学んでいる途中であるため、大人が優しく導いてあげることが重要です。

参考:

Steinbeis, N., Bernhardt, B. C., & Singer, T. (2012). Impulse control and underlying functions of the left DLPFC mediate age-related and age-independent individual differences in strategic social behavior. Journal or Book Title. DOI

Su, S. (2018). [Paper Title]. In Proceedings of the 2018 4th International Conference on Economics, Social Science, Arts, Education and Management Engineering (ESSAEM 2018).

自己主張が強くなりすぎないようにするための育て方のコツ

それでは最後に、自己主張が強くなりすぎない子どもになるために、どのように工夫をするとよいのかについて、ご説明いたします。

カリフォルニアの心理学者Reynolds博士は、適度に自己主張ができる子どもたちを育てるためのポイントとして、次のようなものを紹介しています。

親が積極的な傾聴(アクティブリスニング)を意識する

積極的な傾聴(アクティブリスニング)とは、話をしている子どもに集中して注意を払い、子どもが伝えようとしていることに、できるだけ気づくように意識することを意味します。

自己主張の強い子どもは、自分の意見が何よりも重要であると信じている可能性がありますが、常に子どもの思い通りになるわけではありません。

当然ダメなものはダメと教えるべきですが、親が積極的に傾聴することで、たとえ子どもの主張に対する答えが「ノー」であっても、子どもの意見が依然として重要であることが伝わります。

単に否定するのではなく、大切にしていることが伝わるように配慮することは、まさにアサーティブネスに必要な、建設的な批判に耳を傾け、他人の意見を尊重する姿勢でもあります。

また親に受け入れてもらえていない、認めてもらえてないと感じることが、自己主張が強くなる原因とも考えられていますので、単に子どもの話を受け身になって聞くだけでなく、関心を持って聞いて応答し、ときに質問し、子どもの意見を尊重する関わりが有効です。

なお、子どもと一緒にいるとき、子どもとの関わりに没頭することは、「マインドフルな子育て」と呼ばれますが、マインドフルな子育てを実践することは、子どもの感情制御を高めることにつながり、アサーティブな自己主張につながることも示唆されています。

親が手本となる

子どもたちは親や周りの大人を真似することで学びます。適度な自己主張を学ばせるためには、親がモデルとなるようにするとよいでしょう。

まず親が子どもと話すときは、子どもであっても丁寧に、そして敬意を払って話をするようにしましょう。

また子どもの主張や言動を否定する際も、しっかりと説明を加えて否定をすることです。悪いことをしたときは、なぜその行いがダメなのか、激しく主張したときは、その言葉で悲しい気持ちになる人がいることなど、子どもにもわかる言葉で説明します。そしてさらにどのようにするのがよいのか、具体的に説明してあげるとよいでしょう。

子どもたちの自信を育てるようにサポートする

自信のある人は、自分の誤りを認めることができ、他人にも寛容になることができます。このような行動は、適度な自己主張に必要な要素です。

そのためには、失敗してもやり直しても大丈夫だということを子どもに示すことです。うまくできないことや間違いがあっても否定せず、受容すること。また上手くできた時も、その結果だけを褒めるだけでなく、頑張った過程を認め、頑張ったことも含めて褒めることです。

また、その過程で助けてくれた人たちに感謝の気持ちを表すことも忘れないでおきましょう。

参考:psychcentral | 10 Tips to Teach Your Child to Be Assertive

まとめ

自己主張が上手にできることは、子どもたちに自立する力を与え、健全に感情を表現することを可能にします。

子どもたちが我を通すことで、失うものは多くあります。ぜひ、子どもたちが上手に自己主張できるようにサポートしたいものです。

ABOUT ME
この記事の監修者 - 井上 顕滋
31年の経営者経験を持ち、主に教育系メディア事業、人材育成企業、子どもの非認知能力強化プログラム「Five Keys」を運営する財団法人、飲食事業などを経営。 人材育成のキャリアは社員教育からスタートし、成果を上げる中で多くの経営者から問い合わせが増加し、2004年に人材育成企業「リザルトデザイン」を設立。 クライアントの業績に大きく貢献する中で、社員の成果には個人差があることを痛感し、その原因を解明するため、世界的権威である研究者および実践者から最新の心理学と脳科学および「人の心に変化を生み出す最先端技術」を徹底的に学び、実践を重ねた結果、成果とモチベーションの向上を可能にするリザルトプログラムを開発。 また上記「成果の個人差」の真因と、満足度の高い充実した人生を送れるかどうかの鍵が、幼少期(12歳まで)の「親の関わり方」と「与える教育」にあることを発見し、親への教育講座を開催。
子育てのとびら編集部
明日から実践できる子育てに役立つ情報を発信していまいります。