子どもの目標達成スキル

子どもの競争心は必要?負けても悔しくないと思う子どもの心理とは?

「うちの子どもは競争に負けても悔しそうじゃない」と、子どもの競争心について不安に感じる方も少なくありません。「私が子どもの頃はもう少し負けず嫌いだったかも」と思うかもしれませんが、時代による環境の変化なども子どもの競争心に影響を与えていることを理解する必要があります。

しかし、社会に出ると「競争」の機会が増えていきます。今回の記事では子どもが競争に苦手意識を持たず、健全に競争心を持つためにどのようなことを理解するべきかについて紹介します。

そもそも競争心とはどのような心理か?

まず競争心とは何かについて解説します。筑波大学が公表している論文によると、競争心とは「相手を打ちまかそうとする意欲」で、「勝つこと」に焦点を当てているとされています。

またこちらの論文では、競争心が強くなりすぎると、逆に劣等感を感じやすくなると指摘しています。

だからといって競争が悪いかと言われれば必ずしもそうではなく、サッカーやバスケなどのスポーツでも必ず「相手」がいて、その相手を打ち負かすために必死になってプレーします。

「いつも試合に負けているけど、自分達が楽しいからいいよね」というスポーツチームはあまりありません。

またビジネスになるとさらに競争を意識するようになります。「他社に顧客を取られてしまい、売上が下がっていてピンチだけど、自分たちが幸せに働けているからいい」という会社が存在しないように、現実世界では競争は常に近くに存在します。

参考:
青年期における劣等感と競争心との関連 

最近の子どもは「競争」に苦手意識を持っている

ビッグローブ株式会社が実施した「Z世代の意識調査」の調査結果によれば、全国の18歳~25歳の男女600人に「仕事観」について複数の質問をしたところ、65%の人が「仕事上の競争や優劣に興味がない」と回答しました。この調査から現在の若い世代は「競争」をあまり意識していないと捉えることができます。

「子どもの競争心が本当に必要なのか」、「どのような場面で役に立つのか」と疑問を持つかもしれませんが、先述したように、実際に社会人になれば多くの競争環境に置かれるようになります。

例えば会社から評価される際には、少なからず他の社員と比較されることになります。大人へと成長するにつれて競争や比較の機会が多くなり、競争に対して過度に苦手意識を持っていると、受験、就職活動、人事評価など、人生の節目において苦労する可能性もあります。

参考:

ビッグローブ株式会社 | 「多様性は大切だと思う」 8割、「人と競争するのが苦手」7割 BIGLOBEが「Z世代の意識調査」第1弾(価値観・行動編)を発表~「SDGsに配慮した商品を買いたいと思う」5割超~

子どもに競争心がなく、悔しいと思わない心理とは?

子どもが何かしらのゲームや試合に負けても平然としている時に「負けても悔しくないのかな?」、「もしかして向上心がないのかな」と不安になるかもしれません。以下では競争心が弱くなる要因について紹介します。

競争経験が少ない

明星大学院の関口洋美氏の研究によれば、子どもの「競争した経験の量」と「競争心の高さ」には関連があることが示されています。この研究によると、競争心の高い人ほど過去に競争した経験が多かったことがわかりました。例えば、小学校の頃に運動会でのリレーやクラスのテストでの順位、スポーツなどの習い事など、競争を意識した経験が多い子どもは、その後の時期にも競争心が高くなる可能性があると考えられます。

小さい頃からスポーツなどのような「勝ち負け」を意識するような環境に置かれることで、相手や過去の自分と競い合う習慣が身につくと考えられます。

時代の変化によるもの

野村総合研究所の研究によれば、さとり世代・Z世代の競争意識や価値観は、生まれ育った時代の影響を大きく受けています。

具体的には、以下のような特徴や背景が挙げられます。

  • ◯ 人との付き合い方の変化
  • 「考えを主張するより、他の人との和を尊重したい」という意識が高まっています。一方で、「まわりの人から注目されるようなことをしたい」という意識は減少しています。
  • ◯ 競争の必要性の薄れ
  • さとり世代・Z世代は、団塊世代や団塊ジュニア世代と比べて、1クラスの人数が少なくなり、他人との競争の必要性が薄れた世代ともいえます。
  • ◯ ゆとり教育の影響
  • ゆとり教育は、1987年生まれから2004年生まれの人々が受けた教育方式で、詰め込み教育から脱却し、子どもたちの自主性や創造力を重視することを目的としていました。この教育方式では、過度な競争を避けるためにテストの回数を減らし、評価方法も絶対評価に変更されました。
  • これらの変更により、クラス内での順位付けが少なくなり、他者との競争よりも自分自身の興味を追求することが重視されました。結果として、ゆとり教育を受けた世代は、他者との競争意識が薄れ、協調性を重視する傾向が強まったと考えられます。
  • ◯ 協調性の重視
  • さとり世代・Z世代は、他人と競争するよりも、ともに歩調を合わせて協力することを重視する傾向があります。

以上のことから、さとり世代・Z世代は、競争よりも協調性を重視し、人間関係において安定を求める世代であることがわかります。

親の性格

もし、親が強い競争心を持っている場合に、子どもの競争心に影響を与える可能性があるとされています。

例えば、「常に一番を目指せ」と教えられてきた子どもは、「一番であることに意味がある」と意識して常に競争を意識するようになります。一方で、「どんな結果でも頑張ったらいいんだよ」と競争を意識しない親から育った子どもは競争を意識せず、自分のペースで成長しようとする子どもに育つでしょう。

そのほか、一部の子どもは、生まれつき競争心が強いとされています。心理学者は競争心を特性として分類しており、その要因は遺伝と環境から由来するとも考えられています。

参考:
関口 洋美, PC49 競争心に関する研究 : 競争経験と競争心との関係, 日本教育心理学会総会発表論文集, 2001, 43 巻, 第43回総会発表論文集, p. 255-, 公開日 2017/03/30, Online ISSN 2424-1571, Print ISSN 2189-5538,

林 裕之、野村総合研究所、「競争より協調」失敗したくない気持ちから来る悟り世代・Z世代のライフスタイル、2022年10月号

子どもが健全に競争心と向き合うためには?

冒頭でお伝えしたように、競争心が強くなりすぎると劣等感を感じやすくなるため、一概に「競争心を伸ばすべきだ」とはいえません。

しかし、「これができなくて悔しい」、「もっと成長したい」といった気持ちは子どもが目標を達成する上で重要になります。

以下では、健全に競争心に向き合うためのヒントについて解説します。

他者と比較しすぎず、子どもの成長にフォーカスを当てること

筑波大学大学院の高坂 康雅氏らの研究によれば、競争心には他者からの承認や称賛を求める承認欲求と、自分の成長や進歩を求める向上心の2つの側面があるとされています。

この研究は、劣等感が承認欲求を高める一方、向上心が劣等感を低減することを示しています。例えば、学校のテストで良い点数を取ることを目指す子どもが、友達との比較で自分が劣っていると感じると、その子は劣等感を強く感じるかもしれません。

しかし、テストの点数よりも自分の学びを大切にする子どもは、点数が低くても悔しさを感じにくいとされています。このことから、他者との競争を自己成長の機会と捉える子どもは、他者からの評価に左右されず、自分のペースで健全に成長していくことが考えられます。

内発的動機付けを意識すること

東京大学大学院教育学研究科の研究によれば、子どもの競争心は内発的動機づけと外発的動機づけの二つの要因によって影響を受けるとされています。例えば、ある子どもが遊びをしているとき、その子どもが「このゲームが楽しいからやりたい」と思うのは内発的動機づけです。一方で、「友達に勝ってほめられたいからやる」というような気持ちは外発的動機づけとなります。

これらの動機づけが子どもたちが日常生活で直面する様々な課題や活動に影響を与えています。どちらも競争心に影響を与えますが、子どもが健全に競争心を維持するためにも内発的動機付けに目を向けることが重要です。

参考:

高坂 康雅, 佐藤 有耕「青年期における劣等感の規定因モデルの構築 」筑波大学大学院(2009年)

非認知的(社会情緒的)能力の発達と科学的検討手法についての研究に関する報告書

平成27 年度プロジェクト研究報告、国立教育政策研究所、東京大学大学院教育学研究科 (発行平成29年、2017年)

まとめ

今回紹介したように、競争は避けて通れないものではありますが、競争心が強くなりすぎると精神的にもよくない影響を与えてしまいます。

まずは子ども自身の成長に焦点を当てること、他者と競争する際もそれ自体を自己の成長として捉えることで、より健全に競争心を育てることができます。

ABOUT ME
この記事の監修者 - 井上 顕滋
31年の経営者経験を持ち、主に教育系メディア事業、人材育成企業、子どもの非認知能力強化プログラム「Five Keys」を運営する財団法人、飲食事業などを経営。 人材育成のキャリアは社員教育からスタートし、成果を上げる中で多くの経営者から問い合わせが増加し、2004年に人材育成企業「リザルトデザイン」を設立。 クライアントの業績に大きく貢献する中で、社員の成果には個人差があることを痛感し、その原因を解明するため、世界的権威である研究者および実践者から最新の心理学と脳科学および「人の心に変化を生み出す最先端技術」を徹底的に学び、実践を重ねた結果、成果とモチベーションの向上を可能にするリザルトプログラムを開発。 また上記「成果の個人差」の真因と、満足度の高い充実した人生を送れるかどうかの鍵が、幼少期(12歳まで)の「親の関わり方」と「与える教育」にあることを発見し、親への教育講座を開催。
子育てのとびら編集部
明日から実践できる子育てに役立つ情報を発信していまいります。