子どもたちには、それぞれ異なる人格があります。保護者は、子どもの人格を尊重し、その子どもの人格にあった態度で接する必要があります。
今回の記事では、子どもの人格が決まっていく時期、また人格とは何か、そして人格の形成に影響を与える因子、さらに人格に配慮した子どもへの関わり方について紹介します。
人格とは何か?
人格とは、英語で「personality」であることからも想像できるかもしれませんが、その人(person)そのものを表します。その人の行動だけでなく、考え方、人間性なども含む、とても広い概念です。
まずは、人格に近い言葉の気質や性格のそれぞれの違いについて解説します。
気質について
気質は、生まれながらにして備わっているものです。この気質とは、特定の行動や環境に対して特定の反応を示す、個人の傾向を指します。例えば、好奇心や変化への適応、感情的な反応や態度などが含まれます。
性格について
性格は、私たちの倫理的、道徳的、社会的態度や信念を表します。例えば、誠実さ、忠誠心、寛大さなどが含まれますが、この性格には「育った環境」などが影響すると考えられています。
シカゴの心理学者であるVara Saripalli博士によると、最近の人格に関する理論では、人格は生まれた時から持っている「気質」を基盤に形成されていくと考えられています。そして成長していく過程で、日常的な経験を積み重ねるなかで「性格」が形成され、それが人格を進化させるとされています。
参考:
https://psychcentral.com/health/character-vs-personality#is-personality-more-important
子どもの人格はいつ決まるのか?
精神分析学者として有名なジクムント・フロイトによれば生まれてから最初の5~6年間が、私たちの人格形成において重要であり、この間に子どもの人格は決まっていくとされています。
また。彼の弟子であるエリック・エリクソンは、人間の人格形成の8つの段階を概説しましたが、そのうち3つの段階は最初の5~6年間に起こるとしています。
他にもカリフォルニア大学リバーサイド校のNave氏たちによる研究によると、子どもたちの人格は小学校に就学する7歳くらいには決まっていることがわかっています。
しかし、「小学生になる前に人格が決まる」とする説とは違う説を支持する研究もあります。イリノイ大学のRoberts氏たちによると、「外向性」や「精神的な安定」などの傾向は20~40歳代に大きく変化しており、また協調性は老人期に入って最も変化するなど、その人格のタイプによって、成長する時期が異なっていたことがわかりました。
このように、子どもの人格は就学前にある程度決まっていますが、実際にはさらに歳を経て完成されていくものだと言えるでしょう。
参考:
https://journals.sagepub.com/doi/abs/10.1177/1948550610370717
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/16435954
人格の形成に影響を与える要因とは?
では人格の形成に影響を与える要因には、どのようなものがあるのかご説明します。
先にご紹介した通り、人格は生まれつき備わった「気質」と環境の影響を受ける「性格」があわさって形成されると考えられています。つまり、「遺伝」と「環境」の影響を受けると言っても過言ではありません。
ではどちらの影響を強く受けるのでしょうか?
遺伝が与える「人格」への影響について
双子を対象に行う心理学研究で著名な慶應義塾大学文学部教授の安藤寿康先生によれば、人格には以下の5つの特性あるとされています。
- 外向性:
- 社交性や自分に対する自信に影響し、外向性の傾向が高い人は、自己主張が強く社交的な特徴がある。
- 協調性:
- 周囲との関係性の構築に影響し、協調性が高い人は、親しみやすく思いやりがあり、周囲の人たちと連携を深める意欲を強く持っている。
- 開放性:
- 好奇心の強さ、新しいことへの興味に影響し、開放性が高い人は、多くのことに興味を持つ。
- 誠実性:
- 勤勉であろうとする姿勢に影響し、誠実性が高い人は、やるべきことに集中し、確実に仕上げる傾向がある。
- 神経症性:
- マイナスの感情を抱く傾向、また精神的な安定性とも関係し、神経症性の傾向が強い人は、出来事に対するネガティブな感情を抱きやすい傾向にある。
またこの研究では、それぞれの特性に対する遺伝の影響を調べています。
この研究によると、遺伝が人格の形成に与える影響は、
- 外向性:46%
- 協調性:36%
- 開放性:52%
- 誠実性:52%
- 神経症性:46%
となっていました。つまり協調性以外は、ほぼ半分が遺伝の影響を受けていました。
参考:
https://blog.counselor.or.jp/family/f223
環境が与える人格への影響について
また人格に与える環境の要因は、以下の2つあります。
- 親や家庭の影響→共有環境と呼ぶ
- 学校での友人や家族以外の人間関係の影響→非共有環境と呼ぶ
アメリカのミネソタ大学図書館出版局より出版された論文によると、「非共有環境」(学校や友人との関係)が成人期の人格に大きな影響を与えるとされています。
また遺伝学や行動遺伝学の研究からは、幼少期における「共有環境」(親や家庭の影響)が人格形成に大きなな影響を与えることも示されています。特に、幼少期に親から受ける経験や信念(ビリーフ)は、人格形成において大きな役割を果たします。
したがって、家庭内での環境と家庭外での友人関係の両方が、子どもの人格形成において重要であると認識し、バランスの取れた関わりが求められます。
参考:
https://www.mext.go.jp/b_menu/kihon/about/mext_00003.html
人格形成に配慮した子どもへの関わり方
最後に、子どもの人格形成に配慮した関わり方についてご説明します。
子どもの人格は生まれつき決まっている部分と、外部環境の影響を受ける部分があることを理解する
まず、先にご紹介したように、子どもの人格は生まれつき備わっている気質が影響しているところがあり、かつ性格のように、外部環境の影響を受けるところがあります。
そして外部環境からより良い影響を与えることが、より望ましい人格の形成につながっていくことをまず理解しておきましょう。
子どもに手本を見せる
その上で、幼い頃から子どもたちに接する際は、礼儀正しさや忍耐強さなど、子どもたちに身に付けてほしい行動について、子どもたちの前で手本を示すことが大事です。
これは、スタンフォード大学の心理学者であるバンデューラによって提唱された、社会的学習理論と呼ばれる考え方に基づくもので、私たちは他人を観察し、真似をすることで、新しい行動を獲得することができるという理論です。
「子は親の背中を見て育つ」と古くから言われていますが、まさにその通りだと言えるでしょう。
参考:
Simply Psychology “Albert Bandura’s Social Learning Theory”
親の理想や期待を押し付けるのではなく、子どものありのままの人格を受け入れること
マサチューセッツ大学で心理学及び脳科学について研究しているDeater-Deckard教授は、親が子育てする時は、子どもたちがそれぞれ個性的であることを意識するように説いています。
そしてその子どもらしさを尊重すること、親の理想を子どもに押し付けるのではなく、子ども自身が自分らしくあることを見守り、ありのままの性格を受け入れることが重要であることを勧めています。
参考:
WebMD “6 Ways to Help Your Preschooler’s Personality Blossom”
まとめ
子どもの人格がいつ形成されるのか、また人格の形成に影響を与える因子などについてご説明しました。
人格に関する研究や理論は多くあり、現在のところまだ結論が出ていないものもありますが、子どもたちの気質や性格を大切にすること、また子どもの成長を見守ることが、シンプルでありながら一番大切なことであるといえます。
成長し続ける子どもたちの人格の基盤を形成するため、ぜひこの記事を参考にして、子どもたちに接してみましょう。