AIが私たちの生活のなかで活用されるようになると、答えのある問題を早く処理する力よりも、答えのない問題を工夫して解決する力が求められるようになります。
その力の根源となるのが創造力と言われています。この創造力は、これからの時代を生き抜くために、幼い頃から培っておくべき力であると言えるかもしれません。
そこで今回の記事では、子どもの創造力を高めるために何をすれば良いかを詳しく説明します。
創造力は「新しいものを創り出す力」
創造力は、英語でcreativityあるいはcreative powerと訳されますが、これは「作り出す」を意味する「creo」というラテン語を語源に持つ言葉です。つまり創造力とは、これまでなかったもの、新しいものを創り出すことができる力といえます。
一方で、日本語で同じ読み方をされる「想像力」があります。
想像力は、英語でimaginationあるいはimaginative powerと訳されます。この語源はラテン語の「imaginatio」にありますが、これは「似ているものを生み出す」という意味があります。つまり元々は模倣する、コピーするという意味が含まれていましたが、そこから転じて「見たことや聞いたことがないものを思い描くことができる力」との意味を有するようになりました。
創造力と想像力を並べてみると、前者は「新しいものを創り出す力」であり、後者は「経験したことがないものを思い描く力」ですので、想像力を基盤に創造力を発揮することができると考えることができます。
子どもの創造力は今後の時代になぜ必要とされるのか?
ハーバード大学の研究者であり、ハーバードビジネススクールオンラインの記者でもあったBoyle氏は、「なぜ創造力が重要であるか?」と題する記事のなかで、創造力はイノベーションに必要な力であり、創造力を高めることで生産性も高まること、そして人類を進歩させる原動力にもなると紹介しています。
これまで人類は生活が豊かになるための製品を絶えず開発してきました。例えば速く走る馬車が求められていた時代、自動車という全く異なるコンセプトの移動手段を開発し、人類の移動をより便利にしました。
このように自分たちでさえ気づいていないニーズに気づき、解決策を作り上げるために必要とされる力こそが「創造力」なのです。
ところがAIは、この創造力を発揮することが苦手といわれています。AIが得意とする領域は既存の大量のデータを収集し、画像や音声を認識したり、情報を自動処理したり、トレンドを予測したりすることです。つまり過去のデータの蓄積が必要です。
連続的な進歩を遂げる為には、過去のデータは大切な情報ですが、私たちが気づいていないニーズを満たすための一足飛びの進歩には、過去のデータだけではなく、創造力も必要といえます。
このような時代背景もあり、経済協力開発機構(OECD)が推進している、Education 2030プロジェクトでは、急速に変化する社会のなかで、子どもたちに求められるコンピテンシー(獲得すべき能力)について、「新たな価値を創造する力」を重要な能力として定めています。
日本からも文部科学省をはじめ、多くの教育の専門家がこの議論に参画しており、小中学校の学習指導要領の改定につながっていますので、学校教育の現場でも、子どもたちの創造力を育むことは、今まさに注目されていると言っても過言ではないでしょう。
参考:
https://online.hbs.edu/blog/post/importance-of-creativity-in-business
子どもの創造力を高めることのメリットとは
以下では、子どもたちが創造力を高めることで、将来どのようなメリットが得られるのかをご紹介します。
仕事や学業において良い影響をもたらす
Purude大学のGill博士による、子どもの創造力と、将来の職業や最終学歴などとの関係を調べた研究によると、子どもの頃に創造力を養うことは、その後の人生での成功と影響するということがわかっています。
具体的には創造力が高いと評価された子どもほど、成人すると、より給料の良い仕事に就職し、より多くの収入を得ている傾向があることがわかりました。
また、ウィリアム & メアリー大学のKim教授が行った「創造力とイノベーション」の関係についての研究によると、創造力の高い子どもの方が、IQが高い子どもより、学力が向上することがわかっています。これはゲッツェルス・ジャクソン現象と呼ばれています。
幸福感やストレス耐性を高める
創造力を高めることが、子どもの幸福感やストレスへの耐性を高めることもわかっています。
小学生の子どもたちを対象に行われた、創造力を高める活動と将来の幸福感などへの影響を調べた研究のうち、2004年から2011年の間に発表された20本の論文を吟味したAnglia Ruskin大学のBungay上級研究員による報告があります。
この報告によると、コミュニティや学校の課外活動として行われた、音楽、ダンス、歌、演劇、ビジュアル・アートなどの活動は、子どもたちのその後の身体的な健康だけでなく、精神的な健康、幸福感やポジティブな思考にプラスの影響を与えていました。
このように、子どもたちの創造力を高めることにより、さまざまなメリットがあることがわかっています。
参考:
THE CREATIVITY POST “Does Science Say Smart People Are Creative?”
創造力を高めるために家庭で実践できることは?
それでは、最後に創造力を高める子育ての工夫として、家庭でも実践できるトレーニングを紹介します。
好奇心と新しい経験を奨励する
新しい経験やアイデアにオープンな人は、創造力が高いことが知られています。
「創造力」を専門とする、コネチカット大学教育学部Kauman教授は、子どもの好奇心を刺激し、新しい経験をさせることを奨励しています。
子どもは、一般的にゲームや遊び相手など、新しいものを喜んで求めるものです。保護者は、子どもたちに対して、幅広く新しい経験ができる機会を提供するよう工夫しましょう。
もし子どもが内向的であれば、家のなかでできる活動をすすめてみます。例えば、新しい工作やボードゲームに挑戦させたり、初めてのメニューの夕食作りを手伝わせたりするなど、日々の生活のなかで新しいことをさせてみるのもいいでしょう。
そのほか、運動が苦手な子どもには新しいスポーツに挑戦させたり、音楽が苦手な子どもには新しい楽器を持たせたり、異文化に興味を持たせたりするなど、苦手なものにあえて取り組ませてみるのも、新しい経験をさせるひとつの考え方です。
参考:
Kaufman, J. (2021, October 27). How to Nurture Creativity in Your Kids.
自己表現の機会を作る
ニューヨーク市立大学でギフテッド研究・教育センターを創設したMatthews博士は、子どもが興味を示すクリエイティブな活動に参加する機会をつくることを勧めています。
絵画、演劇、音楽、ダンスなど、さまざまなクリエイティブで自己表現ができる方法があります。子どもが興味を示すこれらの活動に取り組ませ、かつ興味を持って取り組んでいるものは、失敗したとしてもあきらめず、粘り強くやり遂げることができるように、子どもたちをサポートしましょう。
Matthews博士によると、「文章でも、絵画でも、演劇でも、音楽でも、操り人形でも、ダンスなど、子どもが自由を表現できるようサポートしましょう」とアドバイスしています。
また結果だけを褒めるのではなく、その努力の過程も称賛し、子どもがその活動に取り組んでみた感想などもそのまま受け入れるようにしましょう。
参考:
Cosmopolitan「親ができることは?子どもの「創造力」を育むアドバイス」
ごっこ遊び・外遊び
脳トレで知られる東北大学の川島隆太教授は、創造力を高める方法として「ごっこ遊び」を推奨しています。これは、「ごっこ遊び」をする際に、役割や場面の設定を自分で作り、ないものをあるかのように想像するからだそうです。
また法政大学の渡辺弥生教授は、友だちと自由に思い切り遊ぶ経験が重要であると説明しています。小学校低学年の子どもたちが外で遊ぶと、友達と協力してトラブルを解決したり、色々と工夫をして遊びを作り出したりします。このような経験が、創造力を高めることにつながります。
参考:
https://woman.excite.co.jp/article/child/rid_KodomoManabiLabo_63725/pid_3.html
https://www.kireilife.net/contents/kyushuouen/hotinfo/52-14.html
まとめ
創造力について、なぜ創造力が必要とされるのか、また創造力を高めることで、子どもたちにどのようなメリットがあるのかについて、ご紹介しました。また子どもたちの創造力を高めるために、ご家庭でできる活動についてもご紹介しました。
アメリカの活動家であり詩人であるマヤ・アンジェロウは、「創造力は使い切ることができない。使えば使うほど創造力は身につく」と言っています。子どもたちが新しい時代を切り拓いていく根源ともなりうる創造力。ぜひ子どもたちの創造力を高め、その力をどんどんと発揮できるように育んであげてください。