子どもの思考力

子どもの「表現力」を高めるために親ができること

子どもの表現力は、社会に出る上で重要なスキルです。社会に出るとコミュニケーションが求められるようになり、他者と協業する上でも表現力が欠かせません。

この記事では、表現力が子どもにとってなぜ重要なのか、表現力が伸びない原因や表現力を伸ばすために親ができることについて解説します。

社会に出ると「チームワーク」が必要不可欠になる

経団連が企業に実施した「2018 年度 新卒採用に関するアンケート調査結果」によると、約8割の企業が新卒社員に「コミュニケーション能力」を求めていることがわかっており、この社会で求められるコミュニケーション能力には、適切に自分の意見や感情を表現できるスキルが重要になります。

表現力が欠けていると相手に自分の考えをうまく伝えることができなかったり、周囲とのコミュニケーションが円滑に進まなかったりと、職場での良好な人間関係を築くことが難しくなります。

また仕事だけではなく、感情や考えを適切に表現することは、子どもが親しい友人を作る上でも重要です。友達から信頼されるためには「自分は何を考えているのか」を誤解なく伝える必要があります。

周りにも「本当は悪い人ではないけど口下手で損をしている人」がいるかと思います。人間関係はコミュニケーションを通じて築くものであるため、本人に悪気はなくても表現力がないだけで、損する場面がよくあります。そのため、子どもの頃から表現力を鍛えることが重要になります。

参考:

経団連「2018 年度 新卒採用に関するアンケート調査結果」

Infant Emotion Development and Temperament

Do preschoolers grasp the importance of regulating emotional expression?

表現力が不足している子どもの特徴

表現力が不足している子どもは良好な人間関係を築くことに苦労するため、これが原因で、子どもの将来にも悪い影響を与える可能性もあります。

以下では、表現力が不足している子どもの特徴を解説します。

自分の感情をうまく説明できない

表現力が不足している子どもは、そもそも自分の気持ちや感情を上手く言葉にできない、または、自分がどのような感情をもっているのかを理解できていない場合があります。

自分の感情や意見を表現するためには、自分の感情について知る能力や、その感情を言葉で説明する力が必要になります。

他人からの目線を気にしている

表現力が不足している子どもは、他人とのコミュニケーションを取る際に、心配や不安などのストレスを感じやすい傾向があります。これは他人からどう思われているのかを気にしたり、自分の意見を表現することで馬鹿にされないかといった不安を感じることが原因とされています。

この状態になる子どもは自分自身やコミュニケーションに対するネガティブなビリーフ(思い込み)ができてしまっている可能性が高いので、Five Keysのようなコミュニケーションのトレーニングができる塾やコアビリーフセラピストなどの専門家に相談することが近道かもしれません。

親が心理的に安定していない

こちらは親の特徴の話になりますが、心理的に不安定な親の子どもは感情や意見を表現する能力が低い傾向にあるということがわかっています。

自分の意見を言うと否定される、怒られるなどの心理安全性が確保されていない状態の場合、自分の意見や考えについて表現することを避ける可能性があります。

この場合も親の心理的な問題を解決することが、本当の解決策なのでコアビリーフセラピストなどの専門家に相談することをおすすめします。

参考:

Cole, P. M., & Jacobs, A. E. (2018). From children’s expressive control to emotion regulation: Looking back, looking ahead. The European journal of developmental psychology, 15(6), 658–677

Howe-Davies, H., Manstead, A.S.R. & van Goozen, S.H.M. (2022) Atypical Facial Expressivity in Young Children with Problematic Peer Relationships. Child Psychiatry Hum Dev, page 1-6

Bronstein, P., Fitzgerald, M., Briones, M., Pieniadz, J., & D’Ari, A. (1993). Family Emotional Expressiveness as a Predictor of Early Adolescent Social and Psychological Adjustment. The Journal of Early Adolescence, 13(4), 448–471.

子どもたちが自分の意見や感情を自由に表現できない理由

子どもたちが自分の感情や意見をうまく表せない理由は複数あり、これらの要素が複雑に絡み合っていることが多いです。

以下では、子どもが感情や意見を表現できない理由について解説します。

自分の感情をわかっていない

子どもが自分の感情を理解していないと、その感情を適切に表現できない可能性があります。例えば、「怒っている」のか「悲しい」のかがわからないため、その感情を説明する言葉が見つからない可能性があります。

自分の感情や意見を表現するためには、まずは自分が何を感じているのかを冷静に把握する必要があり、それらを落ち着いて言葉にして伝えることで相手に自分を表現することができます。

自分の能力や意見に自信がない

子どもが自分の能力に自信を持っていないと、自分の意見や気持ちを否定されたらどうしようという不安が付き纏います。例えば「自分の意見を言いたいけど、馬鹿にされないかな」と不安に感じ、自分の考えや意見について表現することが難しくなります。これらは大人の社交の場でもしばしば感じる感情ではありますが、これらも自分への自信がないことから生まれる感情と考えられます。

周りの環境に対する安心感がない

子どもが自分の周りの環境(家庭や学校など)に対して安心感がないと、自分の真の感情や意見を表現するのが怖くなる可能性があります。例えば、自分の意見を言ったときに笑われたり、馬鹿にされた経験があると、そのあと感情や意見を表現することが難しくなります。

語彙力が不足している

語彙力が不足していると、感じていることや考えていることをうまく説明できません。これは特に複雑な感情や状況になると顕著です。例えば、「がっかりした」、「うらやましい」といった複雑な感情を表す言葉を知らないと、その感情を正確に人に伝えることができず、感情表現がうまくできなくなってしまいます。

怒られることを恐れている

もし子どもが過去に怒りや悲しみなどの感情を表現したときに怒られた経験があると、次からはそのような感情を表現することを避けるようになります。これが続くと、感情を抑える習慣がついてしまい、健全な感情表現ができなくなる可能性があります。

参考:

Gandola, D, (2020) “The Power of Self-Efficacy: Helping Your Child Believe in Themselves,” Family Perspectives, 2(1), 1-5

Göbel, A., Henning, A., Möller, C., & Aschersleben, G. (2016). The Relationship between Emotion Comprehension and Internalizing and Externalizing Behavior in 7- to 10-Year-Old Children. Frontiers in Psychology, 7, 1917

Wanless, S.B. (2016) The role of psychological safety in human development. Research in Human Development, 13(1), 6-14,

Sturrock, A., & Freed, J. (2023). Preliminary data on the development of emotion vocabulary in typically developing children (5-13 years) using an experimental psycholinguistic measure. Frontiers in Psychology, 13, 982676.

Silk, J. S., Shaw, D. S., Prout, J. T., O’Rourke, F., Lane, T. J., & Kovacs, M. (2011). Socialization of Emotion and Offspring Internalizing Symptoms in Mothers with Childhood-Onset Depression. Journal of applied developmental psychology, 32(3), 127–136.

子どもの表現力を伸ばすために親ができること

子どもの表現力を伸ばすためには、親のサポートが重要になります。以下では、家庭でも実践できるサポートについて紹介します。

子どもの自己効力感を伸ばす

子どもの表現力と自己効力感は深く関連していることがわかっています。

子どもに自信を付けさせるために、目標を設定させて努力し、達成する習慣を身につけさせましょう。例えば、「今日学校に行ったら新しく3人の友達とお話しする」、「授業で1日1回は発表する」などです。

このように子どもに新しいことに挑戦させてみて、実際に達成したら「よくできたね!」と褒めてあげることが大切です。

また、子どもがうまくいかなかったときでも、挑戦や失敗を肯定し、優しく正確なアドバイスをするよう心掛けましょう。例えば、「勇気を出して授業で発表したことはすごいね!間違えたところは後で復習しよう。」など、ポジティブな点を最初に挙げ、その後で改善点を優しく指摘すると、子どもの自信や成長につながります。

子どもが話しやすいと感じる環境を整える

子どもが話しやすいと感じる環境にするために、家庭内では肯定的なコミュニケーションを心掛けるようにしましょう。例えば、子どもが学校や友達との出来事を話したときに「それはすごいね!」や「よく頑張ったね!」といったポジティブな言葉で返すことが大切です。

他にも「今日学校で何が楽しかった?」といった質問を投げかけることで、子どもが自分の一日を振り返り、良い点を共有する機会が生まれます。子どもが困っている問題があれば、一緒に解決策を考えてサポートしてあげるものいいでしょう。このようにして、肯定的なコミュニケーションを日常の中に取り入れることで、子どもが話しやすいと感じる環境を作ることが可能になり、子どもの感情表現力も身についていきます。

言語や語彙力を伸ばすサポートをする

子どもが話す機会を増やすために、1日を通し、様々な場面で子どもとコミュニケーションを取り、食事や遊びの時間にも一緒に言葉を交わすようにしましょう。さらに、読書や音読を通じて子どもの語彙を伸ばし、自分で物語を作る経験なども重ねることで、子どもの表現力を高めることができます。

参考:

Vallotton, C., Mastergeorge, A., Foster, T., Decker, K. B., & Ayoub, C. (2017). Parenting Supports for Early Vocabulary Development: Specific Effects of Sensitivity and Stimulation through Infancy. Infancy : the official journal of the International Society on Infant Studies, 22(1), 78–107.

Noble, T., and McGrath, H. (2015) PROSPER: A New Framework for Positive Education. Psych Well-Being 5(2), 1-17 

León-Del-Barco, B., Mendo-Lázaro, S., Polo-Del-Río, M. I., & López-Ramos, V. M. (2019). Parental Psychological Control and Emotional and Behavioral Disorders among Spanish Adolescents. International journal of environmental research and public health, 16(3), 507. 

Outhwaite, L, A (2023) App-based support for parental self-efficacy in the first 1,000 days: A randomized control trial. Front. Psychol. 13, 1-6

まとめ

表現力は、大人になってからも大切であり、社会での成功に直接影響を与える重要なスキルです。親が子どもと様々なことを経験し、子ども自身が考えや思いを表現しやすい環境を作ってあげることで、子どもは感情表現豊かに成長していくでしょう。子どもが自信を持って社会に出るためには、親の適切なサポートが鍵になります。

ABOUT ME
この記事の監修者 - 井上 顕滋
31年の経営者経験を持ち、主に教育系メディア事業、人材育成企業、子どもの非認知能力強化プログラム「Five Keys」を運営する財団法人、飲食事業などを経営。 人材育成のキャリアは社員教育からスタートし、成果を上げる中で多くの経営者から問い合わせが増加し、2004年に人材育成企業「リザルトデザイン」を設立。 クライアントの業績に大きく貢献する中で、社員の成果には個人差があることを痛感し、その原因を解明するため、世界的権威である研究者および実践者から最新の心理学と脳科学および「人の心に変化を生み出す最先端技術」を徹底的に学び、実践を重ねた結果、成果とモチベーションの向上を可能にするリザルトプログラムを開発。 また上記「成果の個人差」の真因と、満足度の高い充実した人生を送れるかどうかの鍵が、幼少期(12歳まで)の「親の関わり方」と「与える教育」にあることを発見し、親への教育講座を開催。
子育てのとびら編集部
明日から実践できる子育てに役立つ情報を発信していまいります。