子どもの自己肯定感

子育て中に起きる「ダブルバインド」の子どもへの影響とは?

子どものコミュニケーション能力は大切だとわかりながらも、どのように伸ばすべきか悩んでいる方もいると思いますが、実は親の言動によっては子どものコミュニケーション能力の成長に悪い影響を与えていることがあります。

その一つにダブルバインドがあります。ダブルバインドとは、2つの矛盾したメッセージを出すことで、子どもを混乱させることを指し、後述しますが、このダブルバインドが子どものコミュニケーション能力の成長を妨げる可能性があるということがわかっています。

以下ではダブルバインドとは具体的に何か、それが子どもにもたらす影響やそれをどのように改善するべきかについて解説します。

社会に求められる重要なコミュニケーションスキル

人材採用・入社後活躍のエン・ジャパン株式会社が実施したコミュニケーションに関する調査では、9割の人が「コミュニケーション能力は現在の仕事に影響する」と回答しました。

子どもの頃からコミュニケーション能力を育てることは、社会に出てチームで同じ目標を達成したり、協力しあったりする上でも重要なスキルといえます。

しかし、子どもに対する接し方によっては、このコミュニケーションスキルの成長を阻害する可能性もあり、その要因の一つとして先述しましたが、「ダブルバインド」です。

参考:9割が「コミュニケーション能力は現在の仕事に影響する」と回答。ー『エンバイト』ユーザーアンケートー

コミュニケーションスキルを阻害するダブルバインド

ダブルバインドは、親が2つの矛盾するメッセージを子どもに出す状況を指します。このような状況は我々大人の世界でもよくみられます。

例えば、上司が部下に対して、「自由にアイデアを出してほしい」と伝えながら、同時に「でも、今回は失敗だけはしてはいけないからね」と言ったとしましょう。このような場合、部下は自由にアイデアを出すことと、失敗を避けることの間で混乱してしまいます。

子どもとの関係においても上記のようなダブルバインドは起こり得ます。

例えば、親が「今考えてることを正直に言ってほしい」と子どもに伝えつつ、「でも、がっかりさせないでね」とも言うと、子どもは自分の意見を表現することと、親が求める意見の間で混乱するでしょう。

このようにダブルバインドは、子どもを混乱させ、結果として親子関係に不信感を生み出すリスクがあります。

また子どもがダブルバインドの状況に直面した場合、その子どもは自分の感情や意見を抑え込む傾向があり、自尊心の低下やストレスの増加につながることもあります。

ダブルバインドが子どもに与える影響

以下では親子関係への悪影響以外に、ダブルバインドは子どもに対してどのような影響があるのかをアメリカの人類学者Gregory Batesonらの研究内容をもとに解説します。

上記の要約について、以下で詳しく見ていきましょう。

コミュニケーションのスキルが未熟になる

ダブルバインドの状況は、相手が何を意図して発言しているのかを読み取りにくくなるため、相手の感情を理解したり、自分の感情を適切に表現するスキルが未熟になる可能性があります。

これらのスキルは円滑な人間関係を構築する上でも重要な要素になります。親としては忙しい時など、つい無意識に矛盾したことを発言してしまいがちですが、子どものためにも一貫したコミュニケーションを取ることを意識しましょう。

文字通りにすべてを受け取る傾向がある

例えば、友達が笑いながら「私、絵が下手で困るよね」と言った場合、その友達は笑わせようと自虐の意味も込めて言っているだけかもしれませんが、ダブルバインドの影響を受けた子どもは、その言葉を文字通りに受け取り、「絵が下手で困っているんだ」と解釈する可能性があります。

人間のコミュニケーションは言葉以外にも表情やジェスチャー、また文脈などがあわさることで、発言の内容とは違った意味を含む場合があります。

しかし、ダブルバインドは言葉以外の意味合いを理解する能力にも影響をもたらすと考えられています。

内気な性格になる可能性がある

ダブルバインドが起きている状況は子どもにとって心地が良いものではありません。そのため、子どもはダブルバインドの状況を避けるために、無意識に外部の情報をなるべく見聞きしないようにする可能性があります。

例えば、両親と話すことを避けたり、部屋から出てこず、会話が減ってしまう可能性もあります。親が無意識にダブルバインドのような状況を起こしている場合、親から見ると子どもは部屋に引きこもりがちになったと思うかもしれません。

しかし、親とのコミュニケーションの中での混乱を避けるための反応であるとも考えられるため、「子どもが最近会話しなくなったな」と思った場合には、ダブルバインドのような状況が起きていないか、確認する必要があります。

参考:

Gibney, P. (2006). The Double Bind Theory: Still Crazy-Making After All These Years. Psychotherapy in Australia, 12(3). 

ダブルバインドを未然に防ぐためにできること

冒頭でもお伝えしたように、ダブルバインドは親子間だけではなく、大人の世界でも頻繁に起きます。

コロンビア大学が実施した、企業内におけるダブルバインドについての研究をもとに、以下ではダブルバインドを回避する方法について解説します。研究は企業にフォーカスしていますが、家庭も一つの組織であるため参考になる部分が多いかと思います。

研究によれば、ダブルバインドを回避する方法としては主に以下が挙げられます。

  • 明確なルールを決める
  • 子どもが意見を素直に言いやすい雰囲気を作る

以下ではそれぞれの項目について詳しく解説します。

明確なルールを決める

この問題に取り組むための一つの方法として、子どもとコミュニケーションを取る際には一貫したメッセージを伝えることがあります。

家族内でこれを実現する一つの方法は、子どもとの決まりごとやルールを明確にすることです。

親が決めたルールや決まりごとに沿って子どもに注意したり、自分たちの行動もルールに沿って示すことで、子どもは混乱せずに何が期待されているのかを理解することができます。

親がその日の気分で先日まで許可していたことを急に禁止にしたり、親がダメと子どもに言ったにもかかわらず、親自身はそれをやっていると子どもは「親がいうことはまるで一貫性がなくて信用できない」と思うかもしれません。

親自身も忙しく、過去に言った事などは覚えていないことも多いかと思うので、子どもとしっかりとルールや決まりごとを決めて、共通認識を持ちましょう。

子どもが意見を素直に言いやすい雰囲気を作る

素直な会話がしやすい雰囲気であることは、ダブルバインドを防ぐために重要です。これは自分の意見や感情を正直に伝えられる雰囲気や、またそれを受け入れる環境を作ることを意味します。

家族内でできることとして、子どもの意見を尊重し、子どもが素直に発言できる雰囲気を作ることは非常に重要です。また、親自身も自分の感情や考えを適切に表現することで、子どもは感情の表現の見本を学ぶことができます。

子どもも親の矛盾にはすぐに気づきます。また過去に子どもに矛盾を指摘されたこともある方も多いのではないでしょうか。

その際に「親に向かって偉そうに!」「親がいうことが正しいの」とつい反射的にムキになり、矛盾点を棚に上げて言い返してしまった場合、子どもは「自分が思ったことを言っても聞き入れられなかった」と感じてしまいます。

結果として、子どもが本音を話さなくなったりするリスクがあります。そのため親も間違った時には素直に謝罪したり、自分の感情を表現する必要があり、このような素直なコミュニケーションは、相互理解を深め、ダブルバインドの状況を防ぐことにつながります。

参考:

Bowen, D. E., & Ostroff, C. (2004). Understanding HRM–firm performance linkages: The role of the “strength” of the HRM system. Academy of Management Review, 29(2), 203–221. 

まとめ

子どものコミュニケーション能力は将来社会人になる上で必要なスキルですが、もし家族内でダブルバインドのような状況が起きている場合は、早急に解決するべきといえます。

ダブルバインドのような状況は普段の会話においてもよく起きる問題であるため、ぜひ今回の記事を参考にしてみてください。

ABOUT ME
この記事の監修者 - 井上 顕滋
31年の経営者経験を持ち、主に教育系メディア事業、人材育成企業、子どもの非認知能力強化プログラム「Five Keys」を運営する財団法人、飲食事業などを経営。 人材育成のキャリアは社員教育からスタートし、成果を上げる中で多くの経営者から問い合わせが増加し、2004年に人材育成企業「リザルトデザイン」を設立。 クライアントの業績に大きく貢献する中で、社員の成果には個人差があることを痛感し、その原因を解明するため、世界的権威である研究者および実践者から最新の心理学と脳科学および「人の心に変化を生み出す最先端技術」を徹底的に学び、実践を重ねた結果、成果とモチベーションの向上を可能にするリザルトプログラムを開発。 また上記「成果の個人差」の真因と、満足度の高い充実した人生を送れるかどうかの鍵が、幼少期(12歳まで)の「親の関わり方」と「与える教育」にあることを発見し、親への教育講座を開催。
子育てのとびら編集部
明日から実践できる子育てに役立つ情報を発信していまいります。