子どもに対して「なんでそんなこともできないの」と時にストレスを感じることもあると思います。大人にとって当たり前のことを子どもができないと「子どもだから」と頭でわかっていてもついストレスに感じてしまいます。
しかし、子どもの成長段階について理解することで、子どもの立場を理解し、子どもの成長段階にあったサポートを実施することができます。
以下ではピアジェの発達段階論を紹介し、子どもの認知発達のために親としてできることについて紹介します。
ピアジェの発達段階論とは?
ピアジェの発達段階論は、子どもの「認知機能の成長」を4つの段階に分けて説明した理論です。子どもが認知する言語や数字の概念、また世界で起きる事象について、それぞれの段階でどのように理解しているのかを把握する上で役立ちます。
たとえば、子どもがどの発達段階にいるかを理解していれば、それぞれの段階にあったサポートをすることができます。
大人が当たり前にできると感じていることも、子どもの年齢によっては難しく感じることもあります。適切なタイミングで、適切なレベルの活動を提供する目安を知るためにも、ピアジェの発達心理学を知っておくことは重要になります。
以下ではピアジェの4つの発達段階について解説します。
ピアジェの発達段階1:感覚運動期(生後から約2歳まで)
感覚運動期は、感覚と運動を通して世界を認識すると言われており、生後から2歳まで続くと言われています。また感覚運動期は以下の6つの段階に分けられると考えられています。
第1段階 (生後-1ヶ月)
原始反射(Reflexes )と呼ばれる段階で、子どもは吸ったり、触れたり、見ることで得られる感覚を通して周りの環境を理解します。
第2段階(1-4ヶ月)
一次循環反応(Primary Circular Reactions)と呼ばれる段階で、子どもがある出来事を経験した後、その行動を繰り返すようになります。例えば、子どもが母親の指を触り、心地よいと感じるとそれを何度も繰り返すようになります。
第3段階(4-8ヶ月)
二次循環反応(Secondary Circular Reactions)と呼ばれる段階で、自分の体だけではなく、物を使って楽しいと感じる行動を繰り返すようになります。例えば、ガラガラと音が鳴るおもちゃで繰り返し遊ぶなどの行動が見られるようになります。
第4段階(8-12ヶ月)
二次的行動構造の統合(Co-ordinating Secondary Schemes)と呼ばれ、目的を達成するために知識を使うようになります。例えば、お気に入りのおもちゃに服がかぶさり邪魔になっている場合、おもちゃで遊ぶために自分でその服をよけるようになります。
第5段階(12-18ヶ月)
三次循環反応(Tertiary Circular Reactions)と呼ばれる段階で、「二次的循環反応」とは違い、状況に合わせて意図的に行動するようになります。例えば、ブロックを分解することだけを楽しんでいたところから、再び組み立てるなどの行動を取るようになります。
第6段階(18-24ヶ月)
初期の表象的思考(Early Representational Thought)と呼ばれる段階では、目の前に物がなくても、それを頭の中でイメージできたり、親が部屋から去っても親は存在していると認識したり、おもちゃを隠されてもどこかにあると考え、それを探し出そうとします。
これらは子どもが物体の永続性を理解しているということを示しています。
参考:
Scott HK. Piaget. In: StatPearls [Internet]. StatPearls Publishing.
ピアジェの発達段階2:前操作期(約2歳から7歳まで)
前操作期の子どもは象徴的な思考ができるようになりますが、物事を分解して考えたり、複数の物事を組み合わせて考えることがまだ難しい段階です。
前操作期では以下の二つの段階に分けられます。
- 象徴的思考の発達
この段階は2歳から4歳の間に象徴的な思考が発達し、目の前に存在しないものでも頭の中でイメージしたり、表現できるようになります。
- 直観的思考への依存
これは4歳から7歳まで続き、根拠もなく自分の直感で物事を考える傾向があります。またこの段階では、子どもは周囲の世界を理解しようとするため、親に多くの質問をするようになります。
前操作期では、以下の5つの特徴が見られるようになります。
言葉で表現するようになる
この段階では、子どもが体験した出来事や感情を言葉で表現できるようになり、この頃から徐々に親と話すことができるようになります。
まねごとをするようになる
これは子どもが生活の中で見たものを真似する行動です。例えば、テレビで踊っている人を見て、自分も真似してみたりなど、目に映ったものを真似して再現するようになります。
想像力を使った遊びをするようになる
絵を描く、ごっこ遊び、物語を作る、歌う、過去について話すなど、想像力を使った遊びや行動を頻繁にするようになります。
また読み聞かせなどを好きになる傾向があり、気に入った本やビデオ(動画)を何度も見返したり、一語一句繰り返すことができるようになるまで、物語を繰り返し読んだりする傾向があります。
アニミズム
アニミズムとは、物に命があるような考え方を指します。例えば、人形で遊びすぎた時、子どもは「人形は遊びすぎて疲れたから今は寝ている」と考えます。しかし、3歳を過ぎると、物が生きていると言うことはなくなると考えられています。
自己中心的な考え方
自己中心的な傾向も見られます。幼児期の自己中心性とは、幼児が他人の視点に立つことができず、誰もが自分と同じように見たり、感じていると考える傾向を指します。
例えば、母親が3歳の弟と一緒におもちゃ屋に行き、10歳の姉へのプレゼントを選ばせた時、その弟は、自分が好きなものは姉も気に入るだろうと考え、ウルトラマンの人形を選んでしまうというようなことが考えられます。
参考:
Scott, H. K., & Cogburn, M. (2023, January 9). Piaget.
Lally M, Valentine-French S. Cognitive development. In Lifespan Development: A Psychological Perspective, 2nd ed. Portland State University.
ピアジェの発達段階3:具体的操作期(7歳から11歳頃)
この段階の子どもは、抽象的な概念だけではなく、より具体的な物事を考えることができます。
この段階にある子どもの特徴は大きく以下が挙げられます。
- 「保存」に対する理解
- 分類に対する理解
- 一度変化したものはまた元に戻るという「可逆性」への理解
- 順番に対する理解
保存への理解について
この時期の認知発達の大きな特徴は「保存」への理解です。これは、物や液体の形や容器が変わっても、その量は変わらないという概念です。
例えば、
- コップの全部の水を形の違うコップに移しても、水の量は変わらない
- 粘土の塊を棒状に伸ばしたり、平たく潰してその粘土自体の質量は変わらない
ということを理解し始めます。
分類する能力
またこの頃から子どもは物事を分類できるようになります。例えば家で飼っているペットは犬で、外で飛んでいるカラスは鳥など、カテゴリーに分けて物事を考えることができます。
例えば、前操作期の子どもの目の前に、「4つの赤い花」と「2つの白い花」を並べて、「赤い花の数は、花の数よりも多いか?」と質問すると、前操作期の子どもは「赤い花の方が多い」と答える傾向にあります。
これは目の前に起きている状況だけに集中し、「パッと見て赤い花がこの中で一番多い!」と考えるためにそのように答える傾向があります。
一方で、具体的操作期の子どもは、赤い花であれ、白い花であれ、「花」という大きなカテゴリーに分類することができるため、「赤い花は4本だけど、花は6本なので、花の方が多い」と答えることができます。
一度変化したものはまた元に戻るという「可逆性」への理解
保存の理解に近いですが、具体的操作期の子どもは物体を変化させ、元の状態に戻すことができることを理解するようになります。
例えば、
- 丸い粘土を平たく潰しても、またそれを同じ形に戻すことができる
- コップの水を空のバケツに入れて、またバケツからコップに戻すこともできる
というように、形や量を変化してもまたそれを戻すことができるということを理解するようになります。
順番に対する理解
高さ、重さ、大きさ、色、形などの数字をもとに順番をつけられるようになります。
例えば、
- 一番大きいものから順に並べる
- 一番明るい色から順に並べる
- 一番重たいものから順に並べる
など、ものを比較する能力が発達するようになります。
このように具体的な物事について論理的に考えることはできますが、仮説を立てながら考えたり、推論することは難しく感じます。
参考:
Scott, H. K., & Cogburn, M. (2023, January 9). Piaget.
Mcleod, S. (2023, June 9). Piaget’s Concrete Operational Stage Stage Of Cognitive Development. Simply Psychology. https://www.simplypsychology.org/concrete-operational.html. Reviewed by Olivia Guy Evans.
ピアジェの発達段階4:形式的操作期(11歳から成人)
形式的操作の段階は認知発達の最終段階であり、一般的に11歳から成人期まで続くと考えられています。
形式操作期では、子どもは抽象的思考や仮説思考など、より高度な思考能力を獲得します。
この時期では、頭の中で想像しながら問題を考えるようになり、周りの環境から情報を取り込み、仮説、検証、推論によって答えを導き出します。
例えば「雨が昨日降ったから今日はジメジメしている。」、「川の水が濁っているのは、昨日雨が降ったからだ」と直接経験していなくても、原因などを推測することができます。
この段階では、子どもはより大人に近い思考を行い、自分の意見を具体的に伝えることができます。他の人の視点や意見を考慮し、論理的な議論を行うことができるため、大人とも建設的な話ができるようになるでしょう。
形式操作期は、ピアジェの認知発達理論において最後の段階であり、成人期に至るまで続く思考の発達を示しています。
参考:JEAN PIAGET THE ORIGINS OF INTELLIGENCE IN CHILDREN
ピアジェの発達段階論の注意点
ピアジェの発達段階論は、子どもの成長の段階を「目安」として捉えるために役立ちますが、この理論を鵜呑みにしすぎないように注意しましょう。
以下では、ピアジェの発達段階論が見落としていると指摘されている点について紹介します。
子どもの能力を過小評価している
ピアジェの理論は、子どもの知的能力や認知の成長段階を提案していますが、新しい研究により、実際の子どもたちの能力は、ピアジェが提案している能力よりも高いことが示唆されています。
注意、記憶、知識の影響
発達段階理論を検証する課題では、注意、記憶、知識などの能力が考慮されておらず、子どもが実験の課題で失敗するのは、直接関係しない他の技能の不足が原因であるのではと、指摘されています。
対象物の永続性に関する誤解
ピアジェの理論によると、乳児は物が存在し続けることを理解していないと提案していましたが、新しい研究では、乳児が物の存在を理解していることが示されています。
保存課題に関する新しい研究
ピアジェの保存課題に関する研究は、子どもたちが数や量の変化を理解する能力をテストするものでした。しかし、新しい研究により、子どもたちの反応は質問の方法によって大きく結果が変わることが示されています。
文化や教育の影響
具体的操作段階の成長は、子どもが住む地域の文化や教育の影響を受けることが示唆されています。
このように子どもの成長は、全て理論通りに実現するわけではなく、住んでいる環境や能力、家庭の状況によって変わってきます。ピアジェの発達段階理論もあくまで「目安」として捉えるように意識しましょう。
参考:心理学の教科書・基礎からの心理学「【心理発達】児童期の認知発達2-ピアジェ理論への批判」
子どもの認知発達のために親としてできることとは?
子育てをしていると「なんでこれが理解できないんだろう」と不安に感じる方も多くいらっしゃいます。それでも無理に理解させようとしたり、つい感情的になり、子どもに「なんでこれがわからないの?」と言ってしまったこともあるでしょう。
先ほど解説したように子どもにはそれぞれの発達段階があり、それらの前提をもとに親としてできる子どもに対するサポートについて解説します。
過度な期待を押し付けず、子どもの成長にあわせて指導する
ピアジェの認知発達理論における子どもの教育の意義は、個人の認知発達の段階にあわせた教育を提供することが重要であるとされています。例えば、具体的操作期の子どもに対しては、ブロックやパズルを使って形や色、数の概念を学んだりすることができます。
親としては、子どもの認知発達の段階を理解し、それに応じた教育を提供することで、子どもの成長を促すことができます。
一方で、過度な期待を押し付けないように注意しましょう。つい「私が子どもの頃はできたはず」と思い込み焦って色々と押し付けてしまうこともあるかと思います。
しかし、子どもの頃の記憶は曖昧で、もしかしたらみなさんが子どもの頃にもできていなかったかもしれませんし、仮にできていたとしても、子どもの成長には個人差がありますので、成長スピードにあわせて温かく見守ることも重要です。
子どもが自分で知識や経験を得られるような環境を作ること
ピアジェは、「知識は個人が自分自身で構築するものである」と考えていました。自分で問題を解決したり、新しい情報を獲得することによって、あらゆる知識が蓄積されていくと主張しています。
そのため、子どもがこれからあらゆる知識を吸収しながら成長していくためにも、子どもに経験を提供することが重要です。
子どもが興味を持っているものに対して、「そんなこと知っても役に立たないよ」、「これは勉強の足しにならないからやめなさい」、「下手すると怪我しちゃうからやっちゃだめ」などと最初から子どもから学ぶ機会を取り上げてしまうと、せっかくの成長段階での貴重な経験を逃してしまうことにもなります。
子どもがどうすれば自分で経験を得られるのかを考え、子どもが興味のある対象を知ろうとしたり、子どもの日々の行動などを観察してみましょう。
参考:Scott, H. K., & Cogburn, M. (2023, January 9). Piaget.
まとめ
子どもには成長段階があり、それぞれの段階によって、成長するポイントが異なります。大人になると子どもの頃に何ができたか、何ができなかったかについて忘れてしまいますが、こうして子どもの成長段階について理解するだけでも適切な接し方が明確になります。