変化の激しい時代において、失敗を許容するスキルが求められています。この時代において、何が正解かわからない中でより多くの経験を積み、失敗を味わうことで、柔軟な思考を養うことができます。
一方で「うちの子、完璧主義で失敗を避けることがよくある…」と不安に思う親も少なくありません。このような時代において完璧主義のまま育ってしまうと、成長の機会を失ったり、時代に取り残されるリスクもあります。
今回の記事では子どもの完璧主義に陥ってしまう原因とその解決策について解説します。
VUCAの時代に「失敗を許容すること」が求められる
ビジネスの情報誌などで「今はVUCAの時代」とよくいわれています。
VUCAとは以下の単語の頭文字をとった造語です。
- Volatility(ボラティリティ:変動性)
- Uncertainty(アンサートゥンティ:不確実性)
- Complexity(コムプレクシティ:複雑性)
- Ambiguity(アムビギュイティ:曖昧性)
社会あるいはビジネスにおいて、不確実性が高く将来の予測が困難な状況であることを意味しており、2010年ごろから「VUCA時代」のようにビジネスでも用いられるようになりました。
また経産省が発表している人材競争力強化のための9つの提言では、VUCA時代においてビジネスのスピードが上がる中、ある程度の失敗を許容する企業文化の醸成は必須として考えています。
今後は常に新しいことに挑戦することが求められると同時に、必然的に失敗も多く経験することになり、挑戦しながらも失敗を許容することが重要になるでしょう。
そのような時代において、失敗を常に避ける子どもの完璧主義を解消したいと考える方もいらっしゃるかと思います。
以下では完璧主義の子どもの特徴とその原因、また解決策について解説します。
参考:人材競争力強化のための9つの提言(案)~日本企業の経営競争力強化に向けて~
完璧主義の傾向がある子どもの特徴
「うちの子どもは完璧主義なのかな」と疑問に思う方もいらっしゃると思います。カナダのトロント大学心理学部教授Paul L. Hewittの研究では、完璧主義である子どもには以下のような特徴があるといわれています。
それぞれについて詳しく解説します。
非現実的な基準を設定し、それらを達成しようとする
自分に対してハードルの高い目標を設定する傾向があることがわかっています。
例えば、「全てのテストで100点を取らなければならない」といったように、子どもが自分自身に対して明らかに達成が難しい目標を設定している場合、それは完璧主義を示す兆候といえます。
少しの失敗でも大事として捉えてしまう
少しの失敗でも「もうだめだ」、「全てが台無しだ」と思う子どもは完璧主義の傾向にあると考えられています。
たとえば、テストで1問だけ間違えたとしても、「私は何もできない」「全てがダメだ」と考えてしまいます。
周りからは優秀な成績だと思っても、本人はがっかりしているケースも少なくありません。このように自分の達成度に対して常に厳しく評価し、少しの失敗も許さない傾向があります。
参考:
The Child-Adolescent Perfectionism Scale: Development, Validation, and Association With Adjustment
子どもの完璧主義の原因について
いくつかの研究では、子どもの完璧主義は親の行動や習慣から影響を受けることが多いと指摘しています。
例えばポルトガルのアルガルヴェ大学の研究によると、子どもの完璧主義の原因は、親の完璧主義的な態度や行動に関連している可能性があることを示唆しています。
ではどのような行動が子どもの完璧主義に影響を与えてるのか。先ほどの研究では以下のように挙げています。
子どもに対して厳しい態度をとる
親が自分自身に対して厳しい基準やルールを設け、それを子どもにも期待することで、子どもが自分を批判する傾向を持つ可能性があるといわれています。
例えば親が期待する基準を満たさなかった場合、子どもは自分に対する評価が低くなり、自分に自信を持つことが難しくなるかもしれません。その結果、挑戦することや新しいことを試すことを恐れるようになり、成長や学習の機会が減少する可能性があります。
ミスや失敗に対して厳しくする
親が子どもの失敗やミスを厳しく批判することで、子どもが自分自身に対して同じような厳しい態度を取るようになる可能性があります。
例えば、学校のテストである問題を間違えた際、親が厳しく批判すると、子どもは「自分は一つの間違いも許されない」、「完璧でなければならない」という思い込みを持つようになります。
これにより、子どもは次回のテストに向けて過度なプレッシャーを感じ、結果的にパフォーマンスが下がるだけでなく、不安障害や抑うつ状態を引き起こす可能性もあります。
このような親の態度や行動は、子どもの心理的健康や幸福感に悪影響を与えることが示唆されています。
子どもが完璧主義から脱却するための心理学的なアプローチ
先ほど紹介した研究によると、子どもが完璧主義から脱却するためには以下のようなアプローチが必要になります。
- 子どもに失敗やミスを許容する態度を示すこと
- 子どもが自分自身を受け入れられるようにサポートすること
- 子どもが自分自身の強みや能力を認識できるようにすること
- 完璧主義的な考え方や行動に対して、柔軟な思考や行動を促すこと
下記にてそれぞれの項目について詳しく解説します。
子どもに失敗やミスを許容する態度を示すこと
失敗は、人間が学習や成長する上で不可欠な要素です。
子どもがミスをしたとき、厳しく叱るのではなく、それが学びの機会であることを理解するよう助けましょう。子どもが自分のミスから何を学ぶことができるかを一緒に考える時間を持つことも良いでしょう。
さらに、自分自身がミスをしたときの対応を通じて、子どもに失敗を許容する態度を見せることも大切です。
子どもが失敗した自分自身を受け入れられるようにサポートすること
子どもが失敗した自分も受け入れられるようになるためには、親からの支持が必要です。その一環として、子どもの成功だけでなく、努力や成長も称賛することが重要です。
また、子どもが困難に直面したり、失敗して落ち込んでいる時も、努力の過程を賞賛するなどサポートしてあげましょう。
子どもが自分自身の強みや能力を認識できるようにすること
子どもが自分自身の強みや能力を理解することで、自尊心と自己効力感を向上させることができます。一緒にアクティビティを行いながら、子どもが何に秀でているのかを探し、得意なことなどを褒めることも有効です。
また、自分自身の得意分野で問題解決することによって、子どもが自分自身の強みを認識できるようにすることも重要です。
完璧主義的な考え方や行動に対して、柔軟な思考や行動を促すこと
「0か100か」「失敗か成功か」だけの極端な考え方に陥っている場合、子どもに他の可能性があることを示し、子ども自身の視野を広げる手助けをしましょう。
例えば、「この問題はただ一つの正解だけがあるわけではない。他にも解決策があるかもしれないよ」と提案するなどして、彼らを柔軟な思考に切り替えることができます。
さらに、完璧であることよりも、一生懸命努力することや、失敗してもまた試すことの価値を教えることも有効です。これらの行動を通じて、子どもは成功と失敗を柔軟に捉え、完璧主義的な思考からの脱却に向けたステップを踏み出すことができます。
まとめ
今後の時代においては、失敗しない完璧主義よりも、失敗を経て学ぶことができる柔軟性が求められる時代です。
そのため、子どもの失敗や間違いに対してはあまり厳しくなりすぎず、その失敗から何を学べるかを考える機会を提供することが重要になります。