子どもの自己肯定感

親の褒め方が原因?承認欲求が強い子どもへの接し方とは

承認欲求とは子どもが自分の価値を確認しようとする自然な感情です。

しかし、承認欲求が過剰になると、子どもは社会に適応する上で問題を抱える可能性があります。

この記事では、承認欲求が強い子どもの特徴や原因について理解し、子どもの成長と子どもが社会に適応するために必要なポイントを解説します。

なぜ過度な承認欲求は改善するべきなのか?

承認欲求は、子ども、大人関係なく、誰しもが持つ感情です。しかし、承認欲求が強くなりすぎると、社会で生きづらくなることもあるため、改善が必要な場合もあります。

以下では過度な承認欲求が起こす問題点について解説します。

改善すべき理由1:「主体性」を損なう可能性があるため

自ら判断し、物事を進めていく主体性が重要な時代において、承認欲求が強くなりすぎると、他人の視線や評価を気にしすぎるため、主体性を持つことが難しくなってしまいます。

経団連が実施した調査では、企業が大卒者に期待する資質として、回答企業の約8割が「主体性」と回答しています。

今後、ビジネスの環境においても変化が激しく、常に新しいことに取り組みたい企業としては、主体性を持って新しいことにチャレンジし続ける人材を求めます。

しかし、承認欲求が過剰になると、このような主体性を妨げる可能性もあるため、子どもの頃に改善する必要があります。

改善すべき理由2:完璧主義な性格になり、失敗を恐れるようになるため

先ほどの主体性に付随しますが、強すぎる承認欲求は他人の目を気にする以外にも、完璧主義を促進する可能性もあります。そうなってしまった場合、自分の間違いや失敗を認めることが難しく、新たな学びや成長を妨げる可能性があります。

「失敗したらどうしよう」「上手くいかなかったらバカにされる」など、些細な失敗に対しても慎重になってしまい、結果として新しいことにチャレンジすることも避けてしまいます。

改善すべき理由3:身体的、精神的にも健全とはいえない

研究によれば、過度な承認欲求は、自分の感情や気分をうまくコントロールする「自己規制能力」を低下させ、これがストレスを引き起こし、過度な飲食や飲酒、他人への依存など、身体的・精神的健康を損なう可能性があります。

今後は、寿命が伸び、人生100年時代と言われている中で、心身ともに健康的に過ごすことがより重要になります。他人の評価を気にするあまり、精神を病んでしまったり、ストレスから来る食生活の乱れを防ぐためにも、このような状況を改善する必要があります。

参考:私の心理臨床実践と「自己肯定感」|立命館産業社会論

承認欲求が強い子どもの3つの特徴

「うちの子は承認欲求が強いのかな?」と疑問に思う方もいらっしゃるかと思います。

以下では、ミシガン大学の研究をもとに、承認欲求が強い子どもの特徴を3つ紹介します。承認欲求が強い子どもを正しくサポートするためにも、まずは、この特徴をしっかりと理解しておきましょう。

以下にて詳しく解説します。

特徴1:他人の評価に敏感

研究によると、承認欲求が強い子どもは、他人(友達や先生、親)からどう見られているかをとても気にする特徴があります。

例えば、「本当はピーマンが好きなのに、周りの友達がみんな嫌いというので、自分も変に思われないように、ピーマンが嫌いなフリをした」など、他人からどう見られるかを気にして行動を変えるのは、承認欲求の強い子どもの典型例だと言えるでしょう。

特徴2:完璧主義

研究によると、承認欲求が強い子どもは、自分自身に対して非常に厳しい基準を設け、完璧を求める傾向があります。

例えば、学校の宿題に、他の子たちよりもはるかに多く時間を費やしたり、テストで思う点数が取れなかった時に、自分を厳しく非難するなどもその一つといえます。これは、他人から承認を得るために、自分自身を最善の状態に保とうとしていることが考えられます。

特徴3:他人の意見を優先してしまう

研究によると、承認欲求が強い子どもは、他人との関係を重視し、友人や同級生との良好な関係を維持するために努力します。

例えば、友達の意見を優先したり、友達を喜ばせる行動をとったりしがちです。これは、他人からの承認や称賛を得るために、他人との良好な関係を維持することが重要だと感じるからです。

一方で、他人との交流において、自分がどのように見られているかを常に気にしているため、ストレスを強く感じてしまう傾向もあります。

 参考:Crocker, J., & Park, L. E. (2004). The costly pursuit of self-esteem. Psychological Bulletin, 130(3), 392–414. https://doi.org/10.1037/0033-2909.130.3.392

子どもの承認欲求が強くなってしまう原因とは?

それではどのようなことが原因で承認欲求が強くなってしまうのでしょうか。以下では考えられる要因について解説します。

それぞれの内容について詳しく見ていきましょう。

要因1:自己評価が低い

先ほどのミシガン大学の研究によると、自己評価が低いと、他人からの評価や承認を強く求める傾向があることが明らかにされています。

自己評価が低い状態とは、自分自身に対して自信が持てず、自分自身の存在に価値を感じることが難しい状態を指します。このような状況では、自己評価を高めるためにも他人からの評価や承認を必要とする傾向があります。

ここで重要なのは、他人からの承認を得ることは、一時的に自己評価を高める効果があるものの、長期的な自己評価の改善にはつながらないということです。そのため、自己評価を向上させるためには、自分自身の価値を認識し、自己承認を育むことが重要です。 

要因2:家庭内で厳しいルール、しつけを強いられている

要因1の自己評価の低下には、自己肯定感の低さが関与しており、その原因の一つとして、「厳しすぎるルールやしつけ」という要素が指摘されています。

モントリオール大学の研究によれば、2歳半から9歳までの間に厳しすぎるしつけを受けた子どもの脳は、青年期以降に萎縮していると報告されました。

なお、萎縮しているのは感情・欲求の制御やストレス耐性に大きく関わる「前頭前野」と「扁桃体」です。

厳しすぎるしつけは、子どもの自己肯定感を下げ、適切に自己評価ができず、他人からの評価を得ようとしてしまいます。そのため、まずは子どもに対してどのように接しているかを見直しましょう。

※この場合の厳しすぎるしつけは母性愛が明確に不足している状況を意味します。

参考:私の心理臨床実践と「自己肯定感」|立命館産業社会論

要因3:才能や成果だけを褒められる

先述しましたが、自己肯定感の低下が、自己評価の低下および、承認欲求の促進につながる一つの要因になります。 

コロンビア大学のClaudia M. Mueller氏およびCarol S. Dweck氏の研究によると、子どもが良い成績を納めたときに、単に能力や才能だけを褒めるのは、実は自己肯定感を下げる要因になる可能性があると指摘しています。

では、どのように褒めるべきでしょうか? 研究者たちは、結果だけではなく、それまでのプロセスも含めて褒めることが重要だと強調しています。

例えば、子どもが困難な問題を解決したとき、「頭がいいね」とその能力だけを褒めるのではなく、「一生懸命考えたね」や「試行錯誤しながら上手に取り組んだね」といったプロセスを褒めるようにします。

このように、結果だけでなく努力や過程も称賛することで、子どもたちは自分の努力が認められ、自己肯定感を高めることができます。また、失敗しても次にはもっとうまくやることができるという自己効力感を育むことにも繋がります。

参考:Mueller, C. M., & Dweck, C. S. (1998). Praise for intelligence can undermine children’s motivation and performance. Journal of Personality and Social Psychology, 75(1), 33-52.

 承認欲求が強い子どもと向き合う3つのポイント

では、どうすれば承認欲求の強い子どもと適切に向き合い、親として子どもの成長と社会適応をサポートすることができるでしょうか?

先ほどのミシガン大学の研究によれば、子どもの感情や努力を認め、子どもが自分の価値や能力に自信を持てるようににサポートすることが、子育ての重要なポイントになると述べています。

以下では、そのポイントをさらに細かく解説していきます。

1:結果だけでなく、子どもの努力や過程も褒める

コロンビア大学のCarol S. Dweck氏らの研究によると、能力や結果のみをほめられた子どもは、失敗を恐れてチャレンジしなくなったり、虚偽の成績を申告したりする傾向があることがわかっています。

失敗からも学ぶことができるというメッセージを伝えるようにすることで、承認欲求が強い子どもは成果だけではなく、挑戦と努力自体にも価値があると理解するでしょう。

例えば、以下のような声がけが効果的です。

子どもが宿題を完成させるのに時間がかかってしまった場合

「宿題、結構時間かかったよね。でもね、最後まで頑張ってやりきったの、すごいと思うよ!」

子どもが運動会のかけっこで結果を出せなかった場合

「結果が出なくてちょっと残念だったね。でもね、〇〇くんが毎日練習して、だんだん速くなっているの、知ってるよ。本当によく頑張ったね!」

このように、過程もあわせて褒めることで、子どもの自己肯定感を高め、過度な承認欲求をおさえることができます。

2:子どもに成功体験を積ませる

子どもが何かを達成したとき、それがどんなに小さな成功でも称賛するようにしましょう。

また 子どもは成功体験を通じて、自分に自信を持つようになります。最初は小さな成功体験を積み重ね、徐々に難しい課題を乗り越えていくことで、子どもの自信は確固たるものになります。

子どもが自信を持つようになると、自分のことを信じることができ、困難に直面した場合でも自分の判断基準で物事を進めていくことができます。結果的に主体性の成長にもつながります。

万が一、子どもが失敗した場合にも、「いい経験をしたね。次はどうすればうまくいくと思う?」と問いかけ、解決策を一緒に考えましょう。

3. 他人との比較ではなく自分自身の強みや成長に焦点を当てる

他人との比較ではなく、子どもが過去の自分と比べて成長しているという実感をもつことが重要です。

他人と比較する癖がついてしまうと、自分で判断基準を持つことが難しくなり、他人の価値観の中で生きていくことになります。

本来、子どもにはそれぞれの個性や強みがあり、それぞれの生きやすさがあるはずです。

例えば子どもは絵を描くことが得意にもかかわらず、親が「こういうふうに育ってほしい」と強く思うばかり、「〇〇くんのように算数をもっと勉強したほうがいいんじゃない?」「もっと他の子のようにスポーツに取り組んだほうがいいと思うよ」などと、他の子どもを基準にして比較してしまうと子どもの承認欲求にも悪い影響を与えます。

子どもが「今できないことも多くあるため自分が過去と比べて前進していればよい」と思うためには、その子どもの強みや、過去と比べてどれくらい成長しているのかに焦点を当てる必要があります。

まとめ

承認欲求というのは、子どもから大人まで、誰しもが持つ自然な感情です。

しかし親としては、子どもの強すぎる承認欲求や自己主張に戸惑ったり、社会での適応力について心配したりすることもあるかもしれません。

そんな時は、一度子育てのアプローチを見直し、子どもの承認欲求が過剰にならないよう、適切なサポートを心掛けてみてください。

ABOUT ME
この記事の監修者 - 井上 顕滋
31年の経営者経験を持ち、主に教育系メディア事業、人材育成企業、子どもの非認知能力強化プログラム「Five Keys」を運営する財団法人、飲食事業などを経営。 人材育成のキャリアは社員教育からスタートし、成果を上げる中で多くの経営者から問い合わせが増加し、2004年に人材育成企業「リザルトデザイン」を設立。 クライアントの業績に大きく貢献する中で、社員の成果には個人差があることを痛感し、その原因を解明するため、世界的権威である研究者および実践者から最新の心理学と脳科学および「人の心に変化を生み出す最先端技術」を徹底的に学び、実践を重ねた結果、成果とモチベーションの向上を可能にするリザルトプログラムを開発。 また上記「成果の個人差」の真因と、満足度の高い充実した人生を送れるかどうかの鍵が、幼少期(12歳まで)の「親の関わり方」と「与える教育」にあることを発見し、親への教育講座を開催。
子育てのとびら編集部
明日から実践できる子育てに役立つ情報を発信していまいります。