昨今、テレビや新聞などで聞くようになった「VUCA」。
具体的にどのような意味があり、子どもたちとどのような関係があるのか、イメージが湧かず、疑問に感じる方もおられるのではないでしょうか?
今回の記事では、VUCA時代とはどのような時代を指すのか、そしてVUCA時代に社会から求められるスキルについてご説明します。
VUCA時代とはどのような時代
VUCAという言葉は、1980年代後半にアメリカ軍関係者の間で使われるようになった言葉です。当時は、冷戦終結後に各地で紛争が始まり、混沌とした世界の状況を説明するために、一部の軍関係者内で使用されるようになりました。
ところが2001年9月11日に起こった同時多発テロ事件のような過去に例のない国際安全保障問題が起きたこともあり、以後、より広く使用されるようになりました。
このVUCAとは、
- Volatile(変動性)
- Uncertain(不確実性)
- Complex(複雑性)
- Ambiguous(曖昧性)
の頭文字をとっています。
それぞれについて詳しく説明します。
変動性(Volatile)
変動性(Volatile)とは、変化が急速で、その変化の程度が予測できないことを意味します。例えばIT技術の進歩は、数年前に予想もしなかったサービスを生み出しています。最近ですと、Chat GPTの出現が良い例でしょう。
不確実性(Uncertain)
不確実性(Uncertain)とは、将来自分たちを取り巻く環境に起こる変化が不確実で、どのように状況が変化するかが判断できない状況です。最近では、新型コロナウイルスの感染拡大による生活環境の変化やロシアによるウクライナ侵攻の長期化などが挙げられます。
複雑性(Complex)
複雑性(Complex)とは、さまざまな要因が絡み合い、混乱を引き起こす可能性があることを指します。グローバル化の影響を受けた世界経済が、その好例です。どの国が何を作り、どこに輸出しているのか、経済活動の規模やスピードはさまざまで、とてもわかりにくい状況になっています。
曖昧性(Ambiguous)
曖昧性(Ambiguous)とは、多様な価値観の影響を受けて、ひとつの出来事に対する答えを簡単に導き出せない状況を指します。
例えば、以前は、出社して定時に働くことが「普通」の働き方とされていましたが、新型コロナウイルスの影響で、多くの企業がテレワークを導入しました。
この変化により、「働き方」に関する価値観が多様化し、一概に「仕事をする=会社に出社する」と言い切ることが難しくなっています。それ以外にもLGBT問題や個人の価値観に関する問題など、必ずしも答えが一つではない状況が現代ではよく起きています。
かつては軍や国家安全保障の分野で使われていたVUCAは、2010年代に入り、ビジネスで次世代型リーダーを育成するために、意識されるようになりました。
そして今や、私たちの日常生活にも拡大して使われる言葉になっています。
参考:
WhatIS “VUCA (volatility, uncertainty, complexity and ambiguity)”
VUCA時代に社会から求められる人材とは
文部科学省による「2030年に向けた日本の教育政策について」によると、VUCA時代には次のような人材が求められることが提示されています。
- 「想定外」や「板挟み」と向き合い乗り越えられる人材
- AIを使いこなす人材、AIが解けない問題と向き合える人材
- 創造的・協調的活動を創発し、やり遂げる人材
変化が急速で変動性(Volatile)の高い時代では、想定外の事態に遭遇することは避けられません。また、複雑性(Complex)や曖昧性(Ambiguous)が存在すると、価値観の異なる対立する人たちとの狭間で、関係性を維持しながら仕事をやり遂げる必要も出てくるでしょう。
また今後さらなる科学技術の進歩が想定され、労働人口の約半分の仕事がAIやロボットで代替できると試算されている時代を生き抜くためには、AIに使われるのではなく、テクノロジーを使い、AIでは解決できない課題に向き合うことも必要です。
さらに不確実(Uncertain)な社会にあっても、そのとき社会に必要とされるモノやサービス、さらには新しい価値を仲間と協力して作り出すことができる人材は、重宝されるでしょう。
このような人材を育成することを文部科学省は考えているのです。
日本も参加して作成したOECDの「Education 2030」報告書(2018年)のなかでも、「私たちの社会を改革し、私たちの未来を作り上げていくためのコンピテンシー(資質・能力)」として、
- 新たな価値を創造する力
- 対立やジレンマを克服する力
- 責任ある行動をとる力
を挙げています。これをみると、文部科学省の提示した「VUCA時代に社会から求められる人材」にも、その内容が反映されていることがうかがえます。
参考:
文部科学大臣補佐官 鈴木 寛「2030年に向けた日本の教育政策について」
文部科学省初等中等教育局教育課程課教育課程企画室「OECD Education 2030 プロジェクトについて」
VUCA時代に育つ子どもたちに求められるスキル
文部科学省が公開しているOECD Education 2030プロジェクトの報告書の内容によると、今後求められるスキルは、
- 適切な情報を収集するスキル
- 主体的に判断するスキル
- 社会の状況に柔軟に対応できるスキル
- コミュニケーションスキル
- 課題を解決するスキル
が必要とされているとも言えます。具体的にどのようなスキルを意味するのでしょうか。
適切な情報収集するスキル
不確実で変化の激しい時代にあっても、情報を適切に収集するスキルが必要です。
最近は、スマホさえあれば、誰でも大量の情報に瞬時にアクセスすることが可能になりました。ただ、例えば新型コロナウイルスのパンデミックのとき、誤った情報に多くの人たちが影響される「インフォデミック」が起こりました。
このような事態に陥らないようにするためには、普段から情報源を確認し、情報の信ぴょう性を見極め、適切な情報を集める必要があります。
子どもたちが適切な情報を集めることができれば、不確実で変化の激しい時代においても正確な判断をすることが期待できます。
主体的に判断するスキル
VUCA時代では、主体的に、かつ迅速に判断するスキルも求められます。
変化の激しい時代についていくためには、自分の持っている知識や経験、判断基準を基盤に、適切な判断を迅速に下さなければ、対応が遅れてしまいます。
まだ社会経験が充分ではない子どもたちですが、例えば何をして遊ぶか、どの服を着るかなど、日々の生活のなかで、自分で自分のことは決める練習をしてみると良いかもしれません。
社会の状況に柔軟に対応できるスキル
予想していなかった出来事に際し、柔軟に対応するスキルも求められます。例えば、新型コロナウイルスのパンデミックに際し、仕事のやり方や生活環境が大きく変わりました。このような事態にも臨機応変に対応できる必要があります。
子どもたちは、急激な社会の変化や生活様式の変化に対し、どうしても弱い立場に置かれています。しかし、逆境に立ち向かう強さや変化に対応するしなやかさは「レジリエンス」と呼ばれていて、子どもたちも身につけることができると言われています。
お茶の水女子大学の岐部智恵子先生によると、「レジリエンス」は子どもの発達レベルや子どもの持つ性格の影響を受けますが、安定した家庭環境や親からの子どもへの自立サポートなども影響することが分かっています。
コミュニケーションスキル
価値観の異なる人たちと協力して、不確実な社会を生き抜くためには、コミュニケーションスキルは必須です。
コミュニケーションは、関わる相手がいてはじめて成立するものです。話したいことを話すのではなく、他人がどのように考えるか、思いを膨らませながら話たり、聞くことが、コミュニケーションにおいて重要です。
VUCAのような時代だからこそ、一人で問題に対応するには限界があり、他者と協力をしていく上でも、コミュニケーション能力は重要になります。
課題を解決するスキル
答えがはっきりとない時代にあって、課題を解決するスキルも必要です。今までに通用していた前例が当てはまらないこともあるため、自身で考えて課題を解決する必要があります。
そのためには、物事を論理的に捉える論理的思考が重要です。
小学校における新学習指導要領では、これらのスキルの獲得を目指し、2020年度から「論理的思考力」をみにつけるためにプログラミング学習に取り組んでいます。
さらに主体性をはぐくむために、学習者同士の対話をとおして学びを深める、能動的学習(アクティブラーニング)を主体とした学習を政府はすすめています。
参考:
チャイルド・リサーチ・ネット「レジリエンス勉強会開催報告『子どものウェルビーイングに重要な、レジリエンスを育てるには』」
文部科学省初等中等教育局教育課程課教育課程企画室「OECD Education 2030 プロジェクトについて」
まとめ
VUCAとは何か、そしてVUCA時代において求められる人材やスキルについて解説しました。
これから世界はさらにVUCAが当たり前の時代を迎えることでしょう。でもどのような時代になったとしても、子どもたちがなりたい自分になることができるよう、備えたいものです。