子どもの思考力

AIが仕事に与える影響と求められる教育とは

人工知能(AI)やロボットに関する技術活用が進むと、10年から20年の間に日本の労働人口49%がAIやロボット等で代替できるようになる可能性が高いと発表されて話題になりました。

また、AIに代替される可能性が高い仕事は100種以上にも及ぶといわれています。では急速に進むAI時代の将来を見据えて、今を生きる子どもたちにはどのような教育が必要となるのでしょうか。

この記事ではAIが与える社会への影響と、AI時代に求められるスキルを育むために必要なことなどについて解説します。

参考:
NRI 野村総合研究所「日本の労働人口の 49%が人工知能やロボット等で代替可能に」

AIが与える社会への影響について

人工知能(AI:Artificial Intelligence)とは、「人間の脳に近い機能を持ったコンピュータープログラム」と1956年に米国の計算機科学研究者であるジョン・マッカーシーが定義しました。

近年、パソコンやスマートフォン、インターネットの普及もあり、社会の至る所にAIが浸透しています。AIの技術は医療や交通、物流、災害対策など、さまざまな分野で社会を支え、私たちの日常生活を効率的で便利なものにしてくれているといえるでしょう。

特に少子高齢化社会の日本では、AIの活用はより重要視されると考えられています。国土交通省によると2050年には日本の総人口は約3,300万人減少(約25.5%減少)するといわれています。また、65歳以上人口は約1,200万人増加するのに対し、15歳から64歳の生産年齢人口は約3,500万人、0歳から14歳の若年人口は約900万人減少する見通しとなっています。

このような将来的な労働力人口不足の解決策として、AIやロボット等の技術活用に期待がかけられているのです。

すでに、 多くの企業で業務の自動化や分析などを目的としてAIの導入が進んでおり、業務効率化などの成果も出てきています。

参考:Cheng-Tek-Tai, M. (2020). The impact of artificial intelligence on human society and bioethics. Tzu-Chi Medical Journal, 32(4), 339-343. 

国土交通省:「今後の社会・経済情勢の変化:第5節 ICTの進化によるこれからのしごと」

AIが仕事に与える影響について

AIが仕事に与える時代の変化は、労働の社会構造にも影響を及ぼすといえるでしょう。では、AIが普及することで私たちの仕事に与える影響は、具体的にどのようなものがあるのでしょうか。

新たな業務や職種を生み出す可能性

業務の効率化や人間の代替としてAIを導入すると「人間の仕事はなくなるのではないか」と思われるかもしれませんが、新たな業務や職種を生み出す可能性があります。というのも、AIを活用する際はAIに関する専門知識やそれを動かす人材が新たに必要になるためです。

かつて全て手作業で田植えをしていた時代からトラクターを活用するようになり、トラクターを動せる人が必要になりました。またモノを生産する際に手作業でやっていたところから機械に代わり、機械を動かす人や、その機械を修理する人が必要になりました。

このように、AIの分野でもAIに新しい分野を教育する職種や、企業に対してAIの効果的な使い方を研修する職種などが今後出てくると考えられます。

また代表的なAIツールであるChatGPTが世の中に広まったタイミングでは、ChatGPTを動かす「プロンプトエンジニア」という職種が注目されました。このようにAIがより社会に浸透することで新たな仕事が発生する可能性が高いと言えるでしょう。

AI時代に対応するためには?

海外の研究では、経営陣が「現在従業員に存在するスキルのほぼ半数 (49%) が 2025 年には役に立たなくなる」と推定しています。また、そのうちの47% の従業員は将来に向けて新たなスキルの習得などの準備ができていない状態だといわれています。

ただし、具体的に将来どのようなスキルが必要とされるかは、まだまだ予測が難しいのが現状であり、臨機応変にスキルの習得が求められるでしょう。

参考:

Selenko, E., Bankins, S., Shoss, M., Warburton, J., & D. Restubog, S. L. (2022). Artificial Intelligence and the Future of Work: A Functional-Identity Perspective. Current Directions in Psychological Science. 

Forbes”Half Of All Skills Will Be Outdated Within Two Years, Study Suggests”

国土交通省:「今後の社会・経済情勢の変化: 第3節 人工知能(AI)の進化が雇用等に与える影響」

AI時代に求められるスキルとは?

AI時代には機械が不得意とする「人間らしい力」、いわゆるソフトスキルを身につける必要があると言われています。ソフトスキルとは、コミュニケーション能力やリーダーシップ、協調性などのことで、学校や仕事での経験を通して向上する性格特性や行動に関わるスキルです。

総務省の2018年の調査によると、AIの普及に対応するために次の3つの能力が求められると発表しています。

  • 論理的思考などの業務遂行能力
  • 企画発想力や創造性
  • 人間的資質(チャレンジ精神や主体性など)

以下では、それぞれの特徴についてくわしく解説します。

論理的思考などの業務遂行能力

業務遂行能力とは、会社で与えられた業務を最後までやり遂げるためのスキルです。与えられた業務に対して、目標を設定し、どのようなやり方がもっとも効率的かを考えて実行する上で、論理的思考が求められます。

もちろんAIから論理的な回答を出力することができますが、AIが出した答えが業務の目的を達成するために効果的かどうかは最終的に人間が判断することです。それを判断するためにはAIを扱う人に一定の論理的思考が求められるでしょう。

子どもの論理的思考力は日々の勉強や習い事などで目標を立てて、効率的に進める方法を考えることなどでも養うことができます。

企画発想力や創造性

AIはすでにある大量データの処理や、データ内のパターンや関連性の発見、明確な目標への最適化・予測などを得意としますが、創造性を活かした新たな価値を生み出すことは人間にしかできないスキルといわれています。

そこで、AI時代に重要になってくるのが企画発想力や創造性です。

企画発想力とは、新たな価値を生み出したり、みんなが見えるように形にしたり、使えるようにしたりするスキルのことです。具体的には会社で新規事業案を考え、実際に顧客が使えるように形にするまでの仕事などがそれに該当します。

このようなクリエイティブな仕事こそ、AI時代にさまざまな場面で人間に求められるスキルといわれています。

人間的資質(チャレンジ精神や主体性など)

AIが得意とする業務の自動化や分析などの業務は、今後AIの導入で人間からAIにどんどん置き換えられていくと考えられています。しかし、現時点でAIは大量データを元に人間の管理下で動いており、自ら主体性を持って考えて行動するレベルには到達していません。

そこで人間独自のスキルとして、新しいことにチャレンジする精神やリーダーシップなどの主体性が求められているのです。

とはいえ、大人になっていきなりチャレンジ精神や主体性を発揮しようとしてもすぐにできるものではありません。そこで、子どものうちから、主体的に物事に取り組むことがなぜ重要であるか、どのような意味を持つのかを説明して、習慣付けることが大切です。

参考:

Dumitru, D., & Halpern, D. F. (2023). Critical Thinking: Creating Job-Proof Skills for the Future of Work. Journal of Intelligence, 11(10). 

総務省「平成30年版 情報通信白書」

AI時代には非認知能力を育む教育がより重要視される

AIが仕事に与える影響や求められるスキルについて解説してきました。AIの活用技術が進む現代では、すでに学んでいることや組織が将来も同じ形として続くかどうかは分かりません。

上記で解説したようにAI時代には、論理的思考や創造性、主体性などの非認知能力が求められるようになります。以下では、どのような教育が求められるか、その一部を紹介します。

論理的思考を身につける教育

前述したように、論理的思考は今後求められるようになります。AI時代には「どのような業務をAIにするか」、「またそれをどう言語化するのか」「出力した答えがなぜ正しいかを論理的に考えられるか」といったスキルが必要になり、それらは論理的思考に含まれます。

現代の教育現場では、タブレットなどのデジタル機器が導入され、ICT教育やプログラミング教育が進んでおり、ロボットやAI対応のアプリケーションなどに子どもたちが触れる機会も増えています。

そのような教育を受けた子どもたちは、将来のAI時代の雇用現場においても、先述したような論理的思考を身につけ活躍することが期待できます。

創造力を育てる教育

前述のように、「最適化」や「効率化」に関わる仕事のほとんどはAIが代替する時代になります。そのため決まった仕事の流れをただ反復する作業などは徐々になくなっていくでしょう。

それと同時に社会の状況にあわせて「どのような新規事業を作るか」など新しい仕事を考えることの重要性がより増していくでしょう。そのような時代にあわせて、今後は子どもの創造力を伸ばしていく必要があります。

新しいアイディアを考えて試したり、新しいやり方やルールを思いついたりなど、0から新しいことを生み出すことが習慣づいていると今後も活躍の場が広がるでしょう。

主体性を育てる教育

AIは「命令を受けて実行する」ことが主な役割になります。しかし、人間も同じように命令を受けて実行するだけになってしまうとAIに代替されるリスクが高くなるでしょう。

人を雇う側の企業にとって「AIは命令してすぐに答えを出してくれるし、コストもかからない」と考えるのは自然な流れであり、そうなると自分で主体的に考え、行動しない人を採用するメリットを感じなくなる可能性があります。

自ら次のアイディアを考え、主体的に動ける人ほど活躍の場所が広がっていくでしょう。このように子どもの頃から主体的に物事に取り組む習慣が必要になります。子どもの主体性の伸ばし方について以下でまとめているので、参考にしてみてください。

まとめ

AIが仕事に与える影響と求められるスキル、教育についてご説明いたしました。

現代は、先行きが不透明で将来の予測が困難なVUCAの時代と言われており、AIの活用技術が進めば今ある企業や業務が将来も同じ形として続くかどうかは分かりません。

だからこそ、子どものうちから生涯を通して主体的に学び、自分で自分の道を切り開く論理的思考と業務遂行能力が重要となってきます。

今回ご紹介した内容を参考に、AI時代に求められるスキルを大人からぜひ主体的に学び挑戦していく姿勢を子どもたちに見せていきましょう。

ABOUT ME
この記事の監修者 - 井上 顕滋
31年の経営者経験を持ち、主に教育系メディア事業、人材育成企業、子どもの非認知能力強化プログラム「Five Keys」を運営する財団法人、飲食事業などを経営。 人材育成のキャリアは社員教育からスタートし、成果を上げる中で多くの経営者から問い合わせが増加し、2004年に人材育成企業「リザルトデザイン」を設立。 クライアントの業績に大きく貢献する中で、社員の成果には個人差があることを痛感し、その原因を解明するため、世界的権威である研究者および実践者から最新の心理学と脳科学および「人の心に変化を生み出す最先端技術」を徹底的に学び、実践を重ねた結果、成果とモチベーションの向上を可能にするリザルトプログラムを開発。 また上記「成果の個人差」の真因と、満足度の高い充実した人生を送れるかどうかの鍵が、幼少期(12歳まで)の「親の関わり方」と「与える教育」にあることを発見し、親への教育講座を開催。
子育てのとびら編集部
明日から実践できる子育てに役立つ情報を発信していまいります。