子どもの思考力の伸ばし方について試行錯誤している方も多いのではないでしょうか。子どもの思考力を伸ばすためには塾などで勉強することが効果的かと思いがちですが、スポーツなどの習い事もまた思考力を伸ばすことができます。
今回は思考力を伸ばすために効果的な習い事やその理由を心理学の研究結果などをもとに解説します。
今後は思考力が求められる時代になる
現代は、第四次産業革命や人口動態の変化などの背景から、企業の事業環境は急速に変化を迎える時代です。
これにより、企業における経営戦略の一環として、人材戦略の重要性を再認識し、喫緊の課題として取り組む必要があることが認識されています。
この変化に対応するためには、社会人基礎力の鍛錬が求められ、その中でも特に考え抜く力が重要視されています。
考え抜く力は、複雑な問題や情報の中から本質を見極め、独自の視点で問題解決や意思決定を行う能力です。この力を養うことは、変化に柔軟に対応し、新たなビジネスチャンスを見出すうえで欠かせません。
さらに、現代は人生100年時代とも言われており、常に学び続ける必要があります。個人が自らの強みを強化し、弱みを補完して能力を発揮するためには、考え抜く力が一層重要となるでしょう。
このような観点から、経済産業省は考え抜く力を強化することを奨励しているのです。
子どもの将来のために子どものうちからできることはさまざまありますが、今回は思考力を鍛えるための有効な習い事について紹介します。
参考:社会人基礎力
思考力を分解して考える
先ほど紹介した「考え抜く力」は以下の3つの要素から成り立っています。
- 課題発見力
- 創造力
- 計画力
それぞれについて解説します。
課題発見力
課題や問題を見つけ出す能力です。現状を客観的に分析し、目的や課題を明確にすることが重要です。状況を的確に把握し、本質的な課題を見極める力が求められます。
創造力
新たなアイデアや解決策を生み出す能力です。ビジネスの第一線で活躍する人材には、既存の枠組みにとらわれず、柔軟な思考で問題に取り組むことが求められます。異なる視点や組み合わせの発想を通じて、新しい価値を生み出す力が必要です。
計画力
問題解決に向けた具体的なプロセスや手順を明確にする能力です。効果的なプランを立てるためには、目標の設定や最適な手段の活用、スケジュール管理などが重要です。計画的なアプローチによって、課題解決の効率性や成果を最大化することができます。
これらの要素が組み合わさり、思考力が形成されます。課題発見力によって問題意識を高め、創造力を通じて革新的な解決策を見つけ、計画力に基づいて具体的な行動を起こすことで、より効果的な結果を生み出すことができます。
社会人になってからも思考力を鍛える方法はあります。問題解決の訓練やブレーンストーミング、デザイン思考の手法などを取り入れるなど、ビジネスの実践的なスキルやトレーニングによって養われます。
ですが、子どものうちからその基礎力を身につけておくと、就職をしてから即戦力として現場で活躍する人材としてキャリアを構築できるでしょう。
思考力の向上が期待できる習い事の一部紹介
子どもの習い事はさまざまありますが、とりわけ思考力の向上に適している習い事を紹介します。
スポーツ系の習い事
スポーツには身体的な活動が伴い、認知機能の向上にも良い影響を与えます。ポーランドのグダニスク大学が行った研究によれば、運動は子どもの認知機能と関連していることが示されています。特に計画的で構造化された運動が効果的です。
認知機能とは、人が情報を処理し問題を解決する力であり、思考力に深く関わります。認知能力は主に以下の要素によって構成されています。
注意力
特定の情報や物事の実行に焦点を当てる能力をさします。注意力を高めることで、不要な情報に気がとらわれることがなくなり、複雑な問題を解決することができます。
ワーキングメモリ
短期間の情報を記憶し、それを利用してタスクを実行する能力です。考える過程で一時的に情報を記憶し、それを新たなアイデアや判断に活用します。ワーキングメモリの容量や柔軟性が高いほど、複雑な課題に対処しやすくなります。
長期記憶
短期に対して、情報を長期間にわたって記憶し、必要に応じてそれを活用する能力です。長期記憶に蓄えられた知識や経験を活用することで、新たな問題に対処したり、アイデアを生み出したりすることができます。
認知の柔軟性
異なる状況や課題に対応し、適応的な思考や行動を展開する能力です。新たな情報や視点を受け入れ、柔軟に考え方や戦略を変えることができます。柔軟な思考は、創造性や革新性を発揮するうえでも欠かせません。
問題解決能力
問題や困難な状況に対処し、効果的な解決策を見つけ出す能力をさします。論理的思考や分析力、創造性を駆使することで、問題の本質を把握し、解決に向けた戦略を立てることができます。
言語能力
言語を理解し、表現する能力です。言語は情報のやり取りや思考のツールとして重要な役割を果たします。言語を使って情報を整理し、論理的な思考を展開することができます。
これらの要素が組み合わさり、認知能力は形成されます。認知能力の向上は、子どもにとっても学習や成長における重要な要素です。
テニスは自己制御の発達に関連しており、サッカーは注意力や問題解決能力、認知の柔軟性、言語能力などを含む認知機能に良い影響を与えるとされています。これらのスポーツを通じて、認知機能の向上や思考力の育成が期待できます。
参考:Physical Activity and Cognitive Functioning of Children: A Systematic Review
チェスや将棋、オセロなど
チェスや将棋、オセロなどのボードゲームは、論理的思考や問題解決能力を鍛えるうえで効果的です。
ルイジアナ工科大学の研究によると、チェスの指導を受けた生徒と受けていない生徒を比較した際に、チェスの指導を受けた生徒の数学の成績が向上したことがわかりました。
チェスは問題解決能力や論理的思考、計画力などの数学的スキルに関連する認知機能を向上させる可能性があります。
ボードゲームを通じて、具体的には以下のような能力が養われます。
ルールの理解
ボードゲームは独特のルールが多く存在し、それぞれの駒が異なる動きをするため、使いこなすためにルールを理解しなければなりません。駒の移動方法、詰みとなる条件、防御方法などさまざまです。
ルールを正確に理解したうえで、ゲームに勝利するための策を練ることができます。
戦略的思考
ゲーム中、プレイヤーは短期的な目標と長期的な目標の両方を考慮しながら戦術を立てて攻略します。
短期的な目標とは、相手の駒を取る、地形を確保するなどの局面ごとの小さな目標です。長期的な目標とは、相手の王将を詰ますことや有利な終盤局面を築くことなど、ゲーム全体を通じた大きな目標です。
戦略的思考を鍛えることにより、プレイヤーは将棋の局面を読み解き、最適な手を選択する能力を向上させることができます。
問題解決能力
プレイヤーは対戦相手の行動を予測し、自分の駒を最適な位置に移動させることで勝利を目指します。
相手の手に対して自分の最善手を見つけるためには、局面の特徴や戦略を考慮しなければなりません。相手も攻めてくるので、守りながらもいかにして攻略するかという問題を解決する力が問われます。
他にも記憶力や集中力、柔軟性も養われます。プレイヤーは駒の動きや戦略を覚える必要があり、盤面の情報を記憶することが重要です。
また、常に戦略的な思考力を維持しなければならないので、集中力がついてきます。立てた戦略に縛られ過ぎず、状況に応じて戦略を変更する柔軟性も重要です。
ボードゲームは家族も一緒にできることも利点です。特にスポーツが苦手な子どもは、ボードゲームの習い事を勧めてみてはどうでしょう。
音楽関連の習い事
思考力は脳の働きによるものです。音楽関連の習い事は、脳の発達を促して子どもの思考力を高めます。
神経科学に関する研究を発表する学術雑誌Journal of Neuroscienceが公表している研究では、プロの音楽家、アマチュア音楽家、非音楽家の3つのグループを比較し、音楽家としてのスキルと練習の強度によって脳の構造が異なることを示しました。
音楽の演奏は右脳と左脳の両方を駆使します。そのため、左脳が司る言語的能力や右脳が司る創造性などが育まれるのです。つまり演奏のレベルが高ければ高いほど、思考力も高いと言えます。
研究によると、高度な音楽スキルや練習の強度によって、特定の脳の領域の灰白質(神経細胞の細胞体が集合している領域)の量が増えることが確認されています。具体的な領域は次のとおりです。
運動野および前運動野
運動野は、脳の中で動作や運動を制御するための領域です。手を上げたり、足を動かしたり、顔を動かしたりする際に、運動野が関与しています。
前運動野は、運動野の一部であり、特に高度な運動の計画や組織に関与しています。たとえば、ボールを投げる前に、前運動野がボールの軌道や力を計算し、正確な投球動作をとるように働きます。
運動野と前運動野が効果的に働くことで、正確な動作や柔軟な動きを実現することができます。
感覚野
私たちが目で見たり、耳で聞いたり、皮膚で触ったりするときに情報を処理する重要な領域です。音楽を演奏しているとき、聴覚情報が感覚野に送られて楽曲のメロディーやリズムを理解するように働きます。
感覚野は子どもが周囲の環境を適切に認識し、学びや成長に対応するのに役立ちます。
前優位頭頂葉
前優位頭頂葉は、意思決定を行ったり、問題を解決したり、行動を制御したりする際に重要な役割を果たしています。目標や計画を立てて実行する力と言えるでしょう。子どもが目標を立て、計画を立て、集中力を維持し、適切な行動を選択する能力を向上させます。
下側頭回
下側頭回は、物体や情報の認識に関与しています。たとえば、絵本を読むとき、下側頭回は絵や図形の形状や色、配置などを把握し、ページが描写している内容を理解します。状況を適切に判断する力となり、問題解決につながります。
以上のように、スポーツやボードゲーム、音楽などの習い事を通じて、思考力と深く関連する認知機能の向上が期待できます。
これらの習い事は子どもの能力や興味に合わせて選ぶようにしましょう。苦手なものや夢中になれないものだと、子どもは集中して取り組むことができません。継続的な取り組みと努力によって、よりよい思考力を養うことができるでしょう。
参考:Brain Structures Differ between Musicians and Non-Musicians
まとめ
適切な習い事を選ぶことで、子どもたちは自己表現や問題解決のスキルを向上させるだけでなく、自信や自己効力感も育むことができます。
重要なのは、子どもの興味や個性に合った習い事を選び、適切な指導やサポートを提供することです。それによって、子どもたちの思考力や創造力を最大限に引き出すことができます。子どもの興味関心を尊重しながら、思考力を豊かにする習い事を選んでください。