子どものリーダーシップを育むためには、クラスの代表や習い事のキャプテンなどを経験しなければいけないと思っている方が多くいらっしゃいます。
「うちの子は物静かで内向的だからリーダーは向いていないのでは?」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、子どもの頃からリーダーシップを身につけることは、その後の人生において多くのメリットがあります。
これまで多くの子どもたちの非認知能力の向上に向き合ってきたリザルトデザイン株式会社 代表取締役、(一財)日本リーダー育成推進協会 特別顧問、井上顕滋さんに、子どものリーダーシップで求められる資質と阻害する要因やリーダーシップを伸ばす方法について解説します。
子どもの頃からなぜリーダーシップを身につける必要があるのか?
Q. 子どもの頃のリーダーシップ経験は、大人になったときにどのような影響を与えると思いますか?
リーダーシップといっても大人になってからすぐにリーダーを任されるものではありません。会社で自分から「リーダーをやりたい」と手を上げても任されるものではなく、会社での経験や実績などコツコツと地道に信頼を積み上げて上司や管理職に認められる必要があります。
その点において子どものころは、比較的リーダーになれるハードルが低く競争相手も少ないため、自分で「リーダーをやりたい!」と手上げをすればリーダーを経験することができるでしょう。
もちろんリーダーには責任感がともないますし、自分1人の意思決定ではなく全体を巻き込む意思決定をしていくプレッシャーもありますが、子どものうちから「いい意味で失敗しておくこと」が大切です。
うまくいかない経験を積み重ねることで「こうすればうまくいくのか」、「こうすればこんなことなっちゃうのか」と試行錯誤し、時にはチーム崩壊なども経験するでしょう。その経験は子どもにとってお金では買えない財産になり、将来「リーダーをやろうかな」と思った際に、すでにコツ掴んだ状態でスタートを切れるわけですからライバルとの差別化にも繋がるでしょう。
このように子どもの頃からリーダーシップを身につけることは圧倒的なメリットがあり、大人になったときに自信を持ってリーダー的な役割を果たすことが可能となるのです。
リーダーシップで求められる資質とは何か
Q. リーダーシップを持つためには、どのような資質が必要ですか?
ただリーダー役を務めるだけではリーダーにはなれません。なぜなら周りの人から嫌われている人がリーダーになっても、それは真のリーダーとは言えないからです。
そもそも、大人や周りの人に推薦されてリーダーになる人は最初から”いいリーダー”であると言えるでしょう。ではいいリーダーの条件とはどのようなものがあるのでしょうか。具体的には以下のような資質が備わっている人のことです。
- 人から好かれる力
- 周りを巻き込む力
- コミュニケーション能力がある
いくら自分がリーダーシップを発揮しようと思っても、フォロワーがいなければ独りよがりなリーダーになってしまいます。本当の意味でリーダーシップを発揮しようと思ったら、周りの人から好かれる力で信頼されることがマストです。
また周りに自分の思いを伝え、それから周りの思いをちゃんと聞く、いわゆるコミュニケーション能力もリーダーとして重要な資質です。伝える力とは、いわば人の心を動かす力のこと。優れたコミュニケーション能力で周りを巻き込み、チームを課題解決に導くことで真のリーダーとして認められるようになるでしょう。
リーダーに育てるためにはリーダーを務めるだけでは不十分
Q.リーダーシップを身につけるためには、リーダーになる経験をひたすら積むべきでしょうか?
先ほど、子どもの頃は比較的リーダーになれるハードルが低く経験しやすいと説明しましたが、一般的にリーダーシップはリーダーを経験すれば身につく訳ではありません。
たとえば漫画「ドラえもん」に出てくるジャイアンのような人はいいリーダーとは呼べるでしょうか。昔は子どもの世界にも独裁的なリーダーも少なからずいましたが、現代社会では通用しないでしょう。なぜならリーダーはフォロワーが内側から「そうしたい」「動きたい」と思わせる力が重要だからです。
リーダーはチームとしての全体最適と各個人の利益を同時に考える必要があります。これは大人も子どもも変わりませんが、子どもが実践するにはレベルが高すぎます。
リーダーシップの土台となるのは自己肯定感と自己効力感
Q. では、子どもの頃から良いリーダーを育てるためにはどうしたらいいのでしょうか。
実はいろいろ経験をさせることでリーダーシップを伸ばすきっかけになるのです。まずは子どもの頃から、趣味でも習い事でも、さまざまなことを経験させて、多様な感情を経験させることがリーダーシップを育てる上で重要であると言えるでしょう。
またリーダーになるためには「自己肯定感」と「自己効力感」の両方が重要になります。
- 自己肯定感:他人と比較することなく、自分自身の存在を認め、尊重することによって生まれる感覚
- 自己効力感:ある行動を遂行することができると自分の可能性を認識していること
一般的に自分のことを自分で受け入れられない人は人前に立つことはできませんし、「自分にもできそうだ」という自己効力感がなければ、そもそも「自分にはリーダーができる」という発想に至らないのです。
また自己肯定感はそこそこある人でも、自己効力感が低いと「自分はふさわしいと思う。でもできる気がしないから無理だ」と挑戦する前に諦めてしまいます。
そのため、子どものリーダーシップを育てる際に、まずは土台となる上記二つの資質が備わっているかにも注意が必要です。
子どものリーダーシップを阻害する要因
Q. 逆に子どものリーダーシップを阻害する主な要因は何ですか?
子どものリーダーシップを阻害する要因は複数考えられますが、よくある原因は以下の二つが挙げられます。
- 親が過保護、過干渉
- 母性の愛と父性の愛が不足している
それぞれについて解説します。
親が過保護、過干渉
子どものリーダーシップを阻害する原因の一つに、「親の過保護、過干渉」が挙げられます。過保護は親が子供の要望に必要以上に応え、子供が困らないように先回りしてしまう行動を指し、過干渉は親が子供に対してあれこれと指示を出し、「こうするべきだ」と自分の考えを押し付けてしまうことを表します。
どちらもバランスが大切で、子どもから失敗を遠ざけたり、挑戦を避けるよう促したりする習慣がある親の子どもはリーダーシップを取りにくい状況にあります。親はそれを良かれと思ってやっていることもあるので、子どものリーダーシップを育てるためにはまず親のマインドを変えることが重要です。
母性の愛と父性の愛が不足している
また母性の愛と父性の愛が不足しているとリーダーシップの土台が構築しにくいと言われています。
- 母性の愛:子どもの全てを受け入れる深い愛情のこと。
- 父性の愛:社会的な規範や秩序などを教え、子どもの自立を促す強い愛情のこと。
母性の愛と父性の愛は男女どちらかが持っているものではなく、母性と父性の両方が存在し、ひとり親でも両方の原理を使って子育てをしています。
子どもの心を自立に向けて成長させていくためには母性の愛と父性の愛のどちらのかかわりも必要であり、重要なのはバランスといえるでしょう。
家庭で実践できる子どものリーダーシップを伸ばす方法
Q. 家庭内で子どものリーダーシップを伸ばすための具体的な方法はどのようなものがありますか?
子どものリーダーシップを伸ばすためには、日常生活の中で子どもに決断の機会を与えることが重要です。では具体的にどのような方法があるのでしょうか。ここではプロゴルファーのエルドリック・タイガー・ウッズの事例をご紹介します。
タイガーの父親であるアール・ウッズは著書の中で、「ゴルフの才能を伸ばすより立派な人間に育てる!」ことを目標に子どものやる気を引き出し親子の絆を深める教育方針を実践したと述べています。
タイガーは一人っ子で家のことは両親に決定権がありましたが、ゴルフのことになると両親やコーチはタイガー自身に全て決めさせる方針でした。つまり、「今日どの練習をするのか」「いつまでやるのか」などの決定権は、全て子どもに委ねられていたのです。
その結果、彼は「史上最高のゴルファー」と称されるほどの成績を残し、また彼自身も次世代を育てるリーダーとして子どもたちの教育に力を入れるようになりました。彼が設立した教育施設「タイガー・ウッズ ラーニングラボ」では2006年の創設以来、子どもたちが放課後に安全に知識を広げ、将来社会に貢献して成功できるような環境を提供しています。
このように、家庭内でも何か子どもに決めさせることで、リーダーシップを養うことが可能です。
例えば、「来週は〇〇県にいくから、家族みんなが楽しめるように旅程を決めてほしい。当日のリーダーに任せたよ」と目的を共有して、あとは何をするかを子どもに決めさせることで、子どもは責任感を持って計画を進めることができます。重要なことは子どもが決定したことを否定せず肯定的に受け止めて当日は親も全力で楽しむことです。
そうして家庭内で日常的に決断をする癖がつくと、子どもは自分にも自信がつき、リーダーシップを発揮できる土台が出来上がるのです。
まとめ
リーダシップはビジネスにおいても、人間関係や仕事の成果に影響を与える重要なスキルですが、子どもの頃から長期的に育む必要があり、リーダーシップを阻害する要因は家庭の中にもあるため注意が必要です。まずは家庭で子どもの自己肯定感と自己効力感を育みリーダーシップの土台を構築していくことが重要といえるでしょう。
今回紹介した方法を参考にしながら、家庭で子どものリーダーシップを発揮する土台作りを実践してみてください。さまざまな経験を積むことで多様な価値観に触れ、人間関係の形成や学業の成果など子どもの豊かな資質を育めるでしょう。