子どもの自己肯定感

子どもの負けず嫌いを強みに変えるためにできることとは

「負けず嫌い」という言葉はしばしば耳にするものですが、負けず嫌いな性格を正しい方向に伸ばすことで、より大きな成長を期待できます。

実際に負けず嫌いな子どもは努力家であり、新たなチャレンジを恐れない一方で、方向性を間違えると、過度な競争心や他人との比較によりストレスを感じることもあります。

今回は心理学の研究結果も取り入れながら、負けず嫌いになる原因や、負けず嫌いを正しく伸ばす方法について解説します。

子どもの負けず嫌いは必ずしも悪いことではない

負けず嫌いな性格は必ずしも悪いとは言い切れません。

負けず嫌いな子どもは、どんな挑戦にも粘り強く取り組みます。物事がうまくいかなくても、挑戦し続け、結果を出すまで努力を惜しまない傾向があります。これは新しい経験を習得する上で、とても重要な強みにもなります。

私たちはビジネス環境の変化が急速に進む時代に生きています。これからの社会で成功するためには、あらゆることに積極的に挑戦し、経験を積み上げていく必要があります。

何かに挑戦して失敗したとき、その経験から学び、「もう一度挑戦したい」と思う闘争心は、子どもたちが成長し続けるために必要です。

しかし、ここで注意すべきなのは、「負けず嫌い」には2つの異なる原動力があるということです。ひとつは、「自分自身を成長させたい」という原動力で、もうひとつは、「他人よりも優れていたい」という原動力です。

これら2つの原動力は、行動の原理原則に大きな違いをもたらします。

負けず嫌いには2種類の原動力がある

「負けず嫌い」の原動力として、心理学では「マスタリーゴール」と「パフォーマンスゴール」の2種類があるとされています。

ベルギーのルーベン大学の研究によれば、それぞれの特徴として、以下のような特性が挙げられます。

マスタリーゴールが原動力である場合

マスタリーゴールは自己成長を目的としています。例えば、クラブ活動においてスキルアップに挑戦し、初めて挑戦して上手くいかなかったとしても、そのスキルを習得するまで何度も挑戦し続けます。

自分自身に対するフィードバックにも寛容で、常に「どうやったらうまくいくか」に焦点を当てており、一つの課題に対して何度も挑戦し、その都度反省点を見つけ出し、次の挑戦に生かすよう努めます。

パフォーマンスゴールが原動力である場合

パフォーマンスゴールは自分自身を他人と比較して優れた成績を取ることを目的としています。例えば、テストの成績やスポーツの結果を、他の人と比較し、自分が上位にいなければ満足できません。

また傾向として失敗に対して否定的な反応を示します。例えば、計画した目標が達成できなかった時、自己否定や挫折感を強く感じ、次の挑戦に対するモチベーションが下がることがあります。

パフォーマンスゴールは一時的に良い結果をもたらすこともありますが、長期的に見ると子どものストレスや不安、自尊心の低下につながる可能性があります。

つまり、他人との比較による競争だけに焦点を当てていると、精神的なストレスが増えてしまう可能性があるということです。


一概にパフォーマンスゴールの効果を否定できませんが、健康的に負けず嫌いを伸ばすためには、子どもが自分の成長に焦点を当てることが重要です。

子どもがパフォーマンスゴール志向の負けず嫌いになる原因とは

先ほどパフォーマンスゴール志向の子どもが他人と比較したり、失敗に対して敏感になっていることを紹介しました。では、これらの状況はなぜ引き起こされるのでしょうか?

親からの過度なプレッシャー

一つの要因として、親からの過度なプレッシャーが挙げられます。フランスのパウ大学とカナダのモントリオール大学の共同研究によると、親の教育方法が子どもの自尊心や自己効力感に影響を及ぼすことがわかっています。

具体的には、親からの過剰な期待や圧力、批判的な態度、過保護な態度などが子どもたちの自尊心や自己効力感を低下させ、競技に対するモチベーションを減退させる可能性があります。自尊心や自己効力感が低下すると、失敗に対して敏感になる傾向が見られます。

親が完璧主義な傾向がある

また、子どもが完璧主義に陥っていることも、パフォーマンスゴール志向を引き起こす要因となる可能性があります。

ブリティッシュコロンビア大学のMartin M Smith氏らの研究によれば、完璧主義の人が失敗を恐れる傾向があることが示されており、完璧主義は、親が常に完璧を求めるあまり、子どもの自尊心やストレス反応に影響を与えることが示されています。

親が完璧主義の特性を強く持つ場合、子どもたちは自分自身に対して厳しい基準を設定する傾向があります。

その結果、子どもたちは失敗に対して過敏に反応し、自尊心が低下し、ストレス反応が増加することがわかっています。これらの状況は、子どもがパフォーマンスゴール志向になる可能性を高めます。

参考:

Achievement Goals, Learning Strategies and Language Achievement among Peruvian High School Students

Parenting behaviors and trait perfectionism: A meta-analytic test of the social expectations and social learning models

子どもの負けず嫌いを「正しい粘り強さ」に変えるために

では、子どもの負けず嫌いの性格を正しい方向に導くためには、どのようにすればよいでしょうか。子どもがポジティブな負けず嫌いになり、物事に粘り強く取り組むためには、以下の要点が考えられます。

子どもに自分で決めることを促す

オーストラリア・カトリック大学ポジティブ心理学・教育研究所のRichard M. Ryan教授らの研究によると、物事に対する子どものやる気は、「自己決定理論」が深く関連しています。

長期的に子どもが物事に取り組むためには、「自分で選択したものかどうか」が重要とされています。子どもが自身で興味を持ったものや、自身で選択したものに対して粘り強く取り組むことで、長期的な成長が見込めます。

例えば、子どもに自分で問題を解決する機会を与えたり、自分で目標を設定することを奨励することが、負けず嫌いの性格を良い方向に伸ばす手助けとなります。

失敗に対して肯定的な姿勢を持つ

親自身が過度なプレッシャーや期待、そして自身の完璧主義を見直すことが必要です。子どもの失敗を成長の機会ととらえ、それが自己肯定感などにプラスの影響を与えるような姿勢を持つことが重要です。

例えば、子どもが何かに失敗したとき、その経験を通じて何を学んだのか、どのように次に活かせるのかを一緒に考えることです。また、小さな成功も大切に祝い、自己肯定感を育てることが大切です。

参考:Self-determination theory and the facilitation of intrinsic motivation, social development, and well-being

まとめ

子どもの負けず嫌いは、適切に導かれることで大いに力となります。ポジティブな方向への成長を促すためには、親が過度なプレッシャーや完璧主義を見直し、子どもの自己決定的な行動を促すことが重要です。

そして、失敗を恐れずに新たな挑戦を続けるようにするためには、失敗を成長の機会と捉える肯定的な姿勢を持つことが大切です。

親として子どもを導く際には、長期的な視点を持つことと、子ども一人一人の特性を尊重することを忘れずに、愛情と理解を持って接していきましょう。

ABOUT ME
この記事の監修者 - 井上 顕滋
31年の経営者経験を持ち、主に教育系メディア事業、人材育成企業、子どもの非認知能力強化プログラム「Five Keys」を運営する財団法人、飲食事業などを経営。 人材育成のキャリアは社員教育からスタートし、成果を上げる中で多くの経営者から問い合わせが増加し、2004年に人材育成企業「リザルトデザイン」を設立。 クライアントの業績に大きく貢献する中で、社員の成果には個人差があることを痛感し、その原因を解明するため、世界的権威である研究者および実践者から最新の心理学と脳科学および「人の心に変化を生み出す最先端技術」を徹底的に学び、実践を重ねた結果、成果とモチベーションの向上を可能にするリザルトプログラムを開発。 また上記「成果の個人差」の真因と、満足度の高い充実した人生を送れるかどうかの鍵が、幼少期(12歳まで)の「親の関わり方」と「与える教育」にあることを発見し、親への教育講座を開催。
子育てのとびら編集部
明日から実践できる子育てに役立つ情報を発信していまいります。