子どもの自己肯定感

子どもの自己肯定感を高めるためには?認知発達学にもとづいた自己肯定感を高めるポイントを紹介

  • 「子どもの自己肯定感ってなんだろう?」
  • 「うちの子は自己肯定感が低い?」

「自己肯定感」というワードを耳にする機会は多くても、実際に何のことか分からない方も多いのではないでしょうか。

自己肯定感は充実した人生を送るために不可欠な資質であり、子どもの頃にいかに高められるかが重要です。幼少期に自己肯定感が育まれなかった子どもはネガティブ思考になり、チャレンジを避ける傾向にあります。

大切なわが子にはより良い人生を歩んでほしいのが親心ですが、わが子の自己肯定感が低い場合、どう接すれば子どもの自己肯定感が高まるのか悩む方も多いかと思います。

本記事では、自己肯定感について噛み砕いて解説した後に、自己肯定感の重要性や自己肯定感が低い子どもに対するサポートの方法について解説します。

自己肯定感をアップする声かけも紹介していますので、ぜひ参考にしてみてください。

そもそも自己肯定感とはどういうものか 

自己肯定感とはよく耳にするワードですが、いざ具体的に説明するとなると難しいものです。

「自己肯定感」とは自分らしさを認め、自分を受け入れる感覚のことです。

似た言葉に「自尊心」があり、同じ意味で捉えられることも多いのですが、厳密にいうと次のような違いがあります。

  1. 自尊心:自分の持つ個性・能力を誇らしく思う気持ち
  2. 自己肯定感:能力の有無に関係なくありのままの自分を認める気持ち

カナダのウォータールー大学社会心理学准教授Christine Logelらの研究によると、自己肯定は神経生理学的な効果をもたらし、ミスや失敗に対するストレス耐性を高め、結果的にはより良いパフォーマンスにつながると結論付けています。

つまり、自己肯定が高い場合、ミスや失敗に対しても寛容になり、失敗などの経験から学ぶ姿勢を身につけ、状況をより良くするための一歩を積極的に踏み出すことができるのです。

その結果として自己肯定感が高い子どもには以下のような傾向があります。

  • 何事にも積極的
  • すべてポジティブにとらえる
  • くじけず何度でもチャレンジする
  • 共感力・コミュニケーション力が高い

上記の特徴を持つ人は、成長過程で培われた自己肯定感を土台に確固たる「自分」を確立しているため、めったなことではくじけません。失敗を恐れず新しい挑戦が求められる今の時代に、自己肯定感こそ不可欠な資質といえます。

参考:Self-affirmation Enhances Performance, Makes Us Receptive to Our Mistakes

自己肯定感は「生きやすさ」に直結する 

先ほど紹介したように、自己肯定感が高いと物事をポジティブにとらえられるため、逆境にも強くなり「生きやすさ」に直結します。

内閣府の調査でも、自己肯定感の高い若者は将来に明るい希望を持っている割合が高いことが分かっています。

自己肯定感はすべての行動の原動力です。自信を持って挑戦し続けることで将来の可能性が大きく広がります。また、自分の行動に責任を持ち、自身で問題を解決していけるかどうかにも自己肯定感の高さが大きく関わっているのです。

自分自身が失敗などに寛容になることで、周りの人のことも同じように受け入れることができます。どのような状況に対しても寛容な人は周囲から愛されるため、自己肯定感の高い人は良好な人間関係を構築できる傾向にあります。

この先、子どもの人生には受験・就職活動などさまざまな困難が待ち受けています。自己肯定感が高ければ何事にも自信を持ってチャレンジできるうえ、自分の考えを明確に主張でき、円滑なコミュニケーションが取れるので社会でも活躍できる人になることが期待できます。

参考:特集 今を生きる若者の意識~国際比較からみえてくるもの~|内閣府

諸外国と比較したときに日本の子どもの自己肯定感は最下位

実は日本の子どもの自己肯定感が低いという結果が、内閣府が公表する「子ども・若者白書」でも取り上げられており、多くの研究や報告がされています。

自己肯定感に関わる項目として「自分自身に満足している」という設問において、「そう思う」と解答した日本の解答率は10.4%。その次に多かったのはスウェーデンの30.8%と3倍近く離れており、トップのアメリカの57.9%とは5倍以上も差がありました。

対して、「そう思わない」と解答した日本の解答率は24.2%であり、他の国の10%を下回り、日本は自信への満足度は最下位と言える結果となりました。

また、「自分には長所がある」という設問に対し、「そう思う」が16.3%で、次に多いのがスウェーデンの28.8%でした。一番多かったのはアメリカで59.1%とであり、その差は3倍以上にもなります。

同設問に対して「そう思わない」と否定的な解答が11.2%あり、諸外国と比べて日本はもっとも否定的な解答が多いことがわかりました。

自己肯定感の低さは、日本の重要な課題にもなっています。

参考:内閣府「特集 今を生きる若者の意識~国際比較からみえてくるもの~

自己肯定感が低い子どもの特徴 

自己肯定感が低いといっても具体的にどのような行動に表れるかイメージしにくいかと思います。イギリスのシェフィールド大学の研究によれば自己肯定感が低い子どもには、次のような特徴が見られることがわかっています。

行動や状況を変えようとしない

自己肯定感が低いと、自分が新しい行動や物事を始めることができると信じることが難しくなります。そのため、例えば新しいことにチャレンジする際にも億劫になったり、変化を拒むようになります。

挫折を感じやすい

自己肯定感が低い人は、新しい行動を始める試みが失敗した時に、より挫折感を感じやすくなります。これは自信をさらに低下させ、新たな行動を始める意欲をさらに減らす可能性があります。

失敗を恐れる

上記のような考え方が定着すると次第に挑戦や失敗を避けるようになります。今の時代、ビジネスの世界でも、数年前に正解であったものが、時間が経てば新しい正解に塗り変わることも難しくありません。

そのような時代では、常に新しいことに取り組んだり、学び続ける重要性が高まります。しかし、自己肯定感が低いまま育ってしまうと、スキルのアップデートなども後回しになり、時代に取り残されてしまうリスクがあります。

参考:Self-affirmation and the self-regulation of health
behavior change

子どもの自己肯定感を高めるために親ができること

自己肯定感と親子関係の良し悪しには密接な関係があるという研究結果が示されています。子どもと接するときは、次のポイントが重要だといわれています。

  • 子どもに共感する
  • ほめ方を工夫する
  • 子どもにどうしたいか選ばせる
  • あえて失敗を経験させる
  • 何もしない時間を作ってあげる

参考:郭芳,子どもの自己肯定感に及ぼす影響要因に関する実証研究,2018-09-30

1.ほめ方を工夫する

文部科学省が公表している「高校生の生活と意識に関する調査」における国際比較」によると、家庭でよくほめられている子どもは自己肯定感が高い傾向にあります。

ほめるときは、具体的にどのような点が良かったのかを伝えてあげましょう。また、結果だけではなく努力した過程をほめることも大切です。失敗したとしても、頑張ったのならOKと認めてあげてください。

また、できないことではなく、できることを見つけてあげるよう心がけましょう。子どもはそれぞれ異なる個性を持って生まれてきました。周りとの比較ではなく、その子自身の良さを認めてあげるべきです。

比べるとしたら過去の子どもと比較し、こんなことができるようになったと喜んであげてください。

いざほめようと思ってもどこをほめればいいのか思いつかないというときは、子どもの小さな行動の一つひとつに注目してみてはいかがですか?

  • 挨拶ができた
  • 学校に行けた
  • 残さず全部食べた
  • ゴミをゴミ箱に捨てられた
  • 食べた後のお皿を自分で下げた

ほめる基準を下げ、できて当たり前と思える行動をほめてあげると子どもの承認欲求が満たされます。子どもを肯定する声かけの繰り返しにより、子ども自身が自分の良さを発見するキッカケになるのです。

大きなことを成し遂げたわけではなくとも、こまめにほめることで自己肯定感がアップします。子どもが何かしてくれたときは、感謝の気持ちを伝えてあげたいものです。

参考:「高校生の生活と意識に関する調査」における国際比較

2.子どもにどうしたいか選ばせる

カナダのブリティッシュコロンビア大学の認知発達に関するAdele Diamond氏の研究によれば、子どもに選択肢を提供し、その結果に対する責任を持たせることが効果的であることが示唆されています。

何か選択する場面では「どうすればいいかな?」「〇〇ちゃんはどう思う?」と子どもの意見を聞くようにしてください。なぜなら、やってみたいと言う気持ちを押さえつけられると、自分の意見は聞いてもらえないとあきらめグセがついてしまうからです。

子どもが運動クラブに入りたいと言っているのに塾に行かせるなど、親の考えを優先させると自分で決められない子どもになってしまうかもしれません。

大人が完璧な方法を提供するより、どのようにすれば目標にたどり着けるのかを子ども自身で考えさせてあげましょう。親から与えるのはあくまでヒントに留め、子どもに決定の余地を残して考えさせることで「自分で決めた」という大きな達成感が得られるはずです。

子どもが自分で選択する経験を繰り返していけば、自分の決定に自信が湧き、自立心が育ちます。

親の言うことに従うのが必要なシーンもありますが、できるだけ子ども自身が考えて行動する体験をさせてあげてください。

「あなたならできる」「お母さんは信じているよ」と声をかけ、子どもの行動を見守ってあげましょう。子どもが選んだことは親が勝手に変えようとせず、子どもを一人の人間として認め、選択を尊重してあげてくださいね。

参考:The evidence base for improving school outcomes by addressing the whole child and by addressing skills and attitudes, not just content. Early Education and Development

3.あえて失敗を経験させる

「失敗するかも……」と思っても、あえて手を出さずに見守ってみることも必要です。子どもに失敗させないよう親が先回りしていると、何か大きな失敗をした時に立ち直れなくなるかもしれません。

失敗したときは「またチャレンジすればいいから大丈夫だよ」と励ましてあげてください。子どもが再挑戦にためらっているなら、一緒にやってみるのをオススメします。子ども一人では難しくても、一緒にやってみればうまくいくはずです。

このとき親はサポート役に徹し、あくまで子どもにやらせるようにしましょう。そうして成功体験を積み重ねるうち、子どもの自己肯定感が高まっていくのです。

4.何もしない時間を提供する

塾や習い事を詰め込みすぎず、時にはぼんやりと考える時間も提供しましょう。

何もしていない時間の間、脳は働きを停止しているわけではありません。ぼんやりしている時の脳の神経回路を「デフォルト・モード・ネットワーク(DMN)」といい、感情・記憶の整理に重要な役割を果たします。

DMNはひらめきや集中力が高まるだけではなく、最新の脳科学研究で自己効力感に関係していることが示唆されています。

自己効力感=「自分にはできる」「自分はうまくやれる」という気持ちは自己肯定感と相互に関連しており、子どもの成長にも大きく影響するでしょう。脳科学の観点からも、子どもに何もしない時間を与えることは有効だと言えるのです。

参考:The brain functional connectivity in the default mode network is associated with self-efficacy in young adults|PubMed®

子どもの自己肯定感の低下を促すリスクがある行動 

子どもの自己肯定感を下げかねない行動には気をつけましょう。具体的には、次のような行動はなるべく避けた方がよいといわれています。

  • 子どもの話をきちんと聞かない
  • 厳しすぎるルールを定める
  • ほかの子と比べる
  • 良い結果だけ評価する

子どもの話をきちんと聞かない

仙台市と東北大学による調査で「家族にしっかりと自分の話を聞いてもらっていない」と感じている子どもの自己肯定感は、話を聞いてもらえている子どもより低いことが分かりました。

仕事や家事・育児に追われ、子供が話しかけてきてもつい片手間で聞いてしまいがちですよね。朝のバタバタしているときなどに「忙しいんだからくだらない話は後にして」と言ってしまった経験がある方も多いのではないでしょうか。

しかし、親から取り合ってもらえないことが続くと、子どもは「自分には興味がないんだ」と思うようになります。

また、子どもが悪いことをしたとき、理由も聞かずに「あなたはなんてダメな子なの!」「そんなことするような子は嫌い」と子ども自身を否定するような言葉で叱るのもNGです。

叱るときは「こういうことをするのはいけない」と子どもの行動を注意し、いつまでもダラダラと怒り続けないように意識しましょう。

参考:「学習意欲」の科学的研究に関するプロジェクト「平成27年度版リーフレット」|仙台市

厳しすぎるルールを定める

将来立派な大人になってほしいと願うばかりに、厳しすぎるルールやマナーを強制していませんか?

モントリオール大学の研究により、2歳半から9歳までの間に厳しすぎるしつけを受けた子どもの脳は、青年期以降に萎縮していると報告されました。なお、萎縮しているのは感情・欲求の制御やストレス耐性に大きく関わる「前頭前野」と「扁桃体」です。

  • 服を汚すようなことは絶対にしたらダメ
  • 鉛筆や箸の持ち方などが少しでも正しくないと激しく叱りつける
  • 言うことを聞かなければ夕食抜きなどの罰を与える
  • 聞き分けがないことばかり言うからと無視する

上記のような行為は、親にそんなつもりはなくても虐待にもなりかねません。あれもダメ、これもダメでは子どもは息苦しくなり、パパとママは自分のことが好きじゃないんだと思い込んでしまいます。

しつけは将来子どもが困らないようにするために大切なものだと言えます。しかし、激しい叱責や体罰は逆効果となってしまうため、注意しましょう。

参考:Prefrontal cortex and amygdala anatomy in youth with persistent levels of harsh parenting practices and subclinical anxiety symptoms over time during childhood|Cambridge University Press & Assessment

ほかの子と比べる

臨床心理学者・大学教授の高垣忠一郎氏によると、他者と比べられて育った子どもはすべて優劣でしか判断できなくなります。「ダメ」と判断した一部分だけで人の価値を決めつけて存在を否定し、自分自身も完璧でなければならないと思い込むのです。

「〇〇ちゃんはできているのに」「お兄ちゃんはあなたの年の頃にはもうできていた」と兄弟姉妹や友だちと比較し、できないことを指摘するのはやめましょう。

子どもの発達度合い・能力はそれぞれ大きく異なるため、ある基準に当てはめて評価するのは間違いです。比べたところで「じゃあがんばろう」とはならないばかりか、周囲より優れていないとダメなんだと思い込んでしまいます。

できないことも含めその子の個性として認め「そのままのあなたで大丈夫」と安心させてあげてください。

参考:私の心理臨床実践と「自己肯定感」|立命館産業社会論

能力や才能だけ評価する

コロンビア大学のClaudia M. Mueller氏およびCarol S. Dweck氏の研究によると、能力や才能をほめられた子どもは、困難にチャレンジしなくなったり虚偽の成績を申告したりする傾向があるそうです。

子どもが成功したときや良い成績を納めたとき、能力や才能だけほめるのも自己肯定感を下げる要因になる可能性があります。

また、子どもがテストで90点を取ったとき「次は100点を目指そう」などと言うのもやめたほうがいいでしょう。結果だけに焦点を当てると、子どもは「常に頑張らないといけない」「失敗した自分には価値がない」と思い込んでしまいます。

結果ももちろん大切ですが、子どもが何かをやりたいと思った気持ちや頑張った過程を認めてあげたいものです。

参考:Praise for Intelligence Can Undermine Children’s Motivation and Performance|Journal of Personality and Social Psychology

まとめ

今回は、子どもの自己肯定感を高めるために親ができることについて説明しました。

自己肯定感は将来の生きやすさにも深く関わる非常に重要な資質だと言えます。子どもの自己肯定感を高めるために親がしてあげられることは、子どもの気持ちに寄り添い、たくさんほめてあげることです。

また、子どもの選択・行動に干渉し過ぎず、近くで見守ってあげることも自己肯定感を高めます。

子どもの自己肯定感には親子関係が重要な位置付けを占めることは間違いないでしょう。とはいえ、忙しい毎日の中でいつも子どもにきちんと向き合うのはなかなか難しいときもありますよね。

どうにかしなければと焦って親の余裕がなくなると、子どもにも伝わってしまいます。子どもに適切な声かけをするためには、親の自己肯定感を上げることも大切です。

自己肯定感が低いのは母親のせい?などと悩む必要はありません。子どもを取り巻く環境すべてが自己肯定感を育むことに加え、いつでも挽回できるとの報告がなされています。

子どもとちょっとした心がけを積み重ね、親子で一緒に自己肯定感を高めていけるといいですね。

参考:子供たちの自己肯定感を育む|参議院

ABOUT ME
この記事の監修者 - 井上 顕滋
31年の経営者経験を持ち、主に教育系メディア事業、人材育成企業、子どもの非認知能力強化プログラム「Five Keys」を運営する財団法人、飲食事業などを経営。 人材育成のキャリアは社員教育からスタートし、成果を上げる中で多くの経営者から問い合わせが増加し、2004年に人材育成企業「リザルトデザイン」を設立。 クライアントの業績に大きく貢献する中で、社員の成果には個人差があることを痛感し、その原因を解明するため、世界的権威である研究者および実践者から最新の心理学と脳科学および「人の心に変化を生み出す最先端技術」を徹底的に学び、実践を重ねた結果、成果とモチベーションの向上を可能にするリザルトプログラムを開発。 また上記「成果の個人差」の真因と、満足度の高い充実した人生を送れるかどうかの鍵が、幼少期(12歳まで)の「親の関わり方」と「与える教育」にあることを発見し、親への教育講座を開催。
子育てのとびら編集部
明日から実践できる子育てに役立つ情報を発信していまいります。