時代の変化とともに個として自立的な働き方が求められるようになり、「長所を伸ばそう!」と叫ばれるようになった昨今ですが、子どもの長所を伸ばそうと思っても、つい子どもの短所に目がいってしまったり、長所の伸ばし方がわからなかったりします。
今回の記事では、子どもの長所や短所の向き合い方や長所の見つけ方などについて解説します。
人口減少の時代、生産性の向上が急務
「量」の経済、つまり大量生産と大量消費が主力であった時代は、物を生産する「効率性」が重要でした。この時代では、製造こそが主要な労働であり、従業員の能力は均質化され、指示に従い一定のパフォーマンスを発揮するだけで十分でした。
しかし現在では「量」から「質」へと労働の価値が移行し、知的労働が中心の経済になっています。この時代では、個人の能力や強みが社会で活躍する上で重要になります。
日本の総務省が発表した「働き方の未来2035」では、「自立した個人が自律的に多様なスタイルで働くことが求められる」と強調されています。
今後の社会では、個人として自立し、働くためにも自身の強みを明確に理解し、それを自分の武器として活用することが求められます。
参考:厚生労働省(2016 年)「働き方の未来 2035」~一人ひとりが輝くために~
子どもの短所だけを注意することで与える影響について
長所を伸ばすということは意外と難しいものです。子どもの欠点を見つけたとき、すぐにそれを直したくなってしまう方の方が多いかと思います。
しかし、コロンビア大学の研究によれば、子どもの短所ばかりに注目し、常に批判的な態度を取ってしまうと、子どもに悪影響を及ぼすことが明らかにされています。
特に子どもの個性や能力に対して、例えば「あなたはあまり賢くないよね」といった批判は、子どもの自己肯定感を低下させる可能性があります。
一方で、子どもの行動の「プロセス」に対する批判では、子どもの自己肯定感を下げることはなく、問題解決能力を養うことができます。
親としては、子どもの「短所」よりも「長所」に目を向けるように意識し、そして子どもの行動に問題があるときでも「プロセス」に対して言及するように心掛けることが、子どもの成長を後押しすることにもつながります。
子どもの長所に焦点をあてることで得られるメリット
子どもの長所を伸ばすためには、ポジティブ心理学の理解が必要です。ポジティブ心理学とは、人が幸福感や満足感を得るための要素や、社会に貢献できるような人の強みに焦点を当てた心理学の分野です。
メルボルン大学Lea Waters氏の研究によれば、ポジティブ心理学を実践することにより子どもの学校における成績や人間関係、精神衛生面の向上といった形で、幅広い範囲で好影響を及ぼすことが実証されています。
また子どもが自分自身の強みを認識し、それを活用できることも重要であり、それができると、学校や日常生活にも良い影響を与えるようになります。
例えば子ども自身が「気づいたら人前にいることが多いな。」「誰かを引っ張ることが多いな」と気づき、率先してリーダー役を務める場合に、その子ども自身も成長するだけでなく、そのクラス全体にも良い影響を与えます。
このように子どもの強みに焦点を当てることで、子どもが長期的に幸せに過ごせるだけではなく、子どもの周りにいる人にもよい影響をもたらすことにもなります。
参考:Lea Waters,University of Melbourne, A Review of School-Based Positive Psychology Interventions
ポジティブ心理学的アプローチに基づいて、子どもの長所を見つける方法
ではどのように子どもの長所を伸ばすことができるのでしょうか。先ほどのメルボルン大学の研究をもとに有効な方法をいくつか紹介します。
質問の仕方を工夫する
子どもたちに対して長所に関する質問をすることです。
- 「何してる時が一番楽しい?」
- 「お母さん(お父さん)はパズルが苦手なんだけど、なんで得意なの?」
- 「なんでその教科(スポーツ)だけは得意なの?」
このような質問を通じて、子どもたちの強みを発見することができます。子どもが得意なことを見つけて自分でなぜそれができるかを説明できるようになることで、自分の強みを認識できるようになります。
子どもの行動などを観察する
先ほど解説した質問の仕方を工夫するためにも、子どもたちがどのような活動や状況で一番輝いているかを観察することが重要です。例えば、子どもが学校の運動会などのイベントで、どのように立ち振る舞っているかを注意深くみてみましょう。
そのときに子どもが周りの友達を引っ張っていったり、勇気づけている行動をとっている場合は、リーダーシップが強みかもしれません。
またリーダーシップがなくても、誰よりも真面目に取り組んでいたり、諦めない姿があれば、それもまた子どもの長所でしょう。
少しでも良いなと思ったことはそれを長所として認識することが重要です。
子どもの強みをしっかりと伝えてあげる
上記で子どもの長所を見つけた後は、子どもたちに対して、子どもが持つ強みを認識させることが重要です。「運動会、誰よりもダンスが上手だったね。誰よりも練習を頑張ったんだね。」といったフィードバックは、子どもたちの自己肯定感を高める助けとなります。
自分の強みはなかなか気づかないもので、大人になっても自分の意外な強みを友人から言われることがありますよね。
もちろん、子どもも同じで最初から強みを認識しているわけではないので、親から教えてもらうことで子どもたちが強みを見つけ出し、今後の人生において活用することが期待できます。
ポジティブ心理学的アプローチを活用して、子どもの強みを伸ばす場合の注意点
上記で長所を伸ばす方法について解説しました。以下では長所を伸ばす際に考慮すべき点をいくつか紹介します。
強みに偏りすぎないこと
特定の強みに焦点を当てすぎず、子どもの全体のバランスを見ながらそれぞれのスキルを伸ばすことが重要です。
例えば、子どもが創造性に優れていると判断した場合、その強みを伸ばすことが重要であると同時に、その子どもが苦手とする分野にも焦点を当て、改善するためのサポートを提供することも必要です。
例えば、人の気持ちを考えて思いやりのある行動を取るのが苦手である場合、どんだけ創造性に長けていても、これを改善しなければ将来苦労する可能性があります。
皆さんの周りにも「あの人、すごいスキル持っているけど、他人への思いやりがないんだよな」と思う方いらっしゃいますよね。
そのような状況になると、どれだけいいスキルを持っていても価値が発揮されない可能性もあります。全ての短所を改善する必要はありませんが、社会人になる上で、最低限必要な素養は何かを考え、全体のバランスを考えながら長所に焦点を当てていきましょう。
強みを多角的に捉えること
例えば、子どもが他人と話すことが好きである場合、「ずっと話していると友達からうるさいと思われるよ」とネガティブな視点から捉え、フィードバックを与えてしまうと、せっかくの強みが生かされない場合があります。
逆にその強みを肯定的に捉えると、「この子は人とのコミュニケーションが得意で、人とのつながりを大切にすることができる。将来的には人との関係を築くことが得意な職業に就くことができるかもしれない」というように、ポジティブな視点から見ることで、子どもの強みを活かすことができます。
親目線ではネガティブに感じることでも、見方を変えると強みに変わるため、子どもの性格の特徴は様々な角度から見るようにしましょう。
個人差を認めること
「個人差を認めること」とは、例えばサッカーが得意といっても周りにはもっと得意な子どももいます。上には上がいる、これは当たり前のことですよね。
しかし、「周りと比べて得意なことがない」と悩んでいる子どもはもしかしたら、自分の得意なことはわかっていながらも、「他にももっと上手にできる人がいる」と思っているかもしれません。
そのような場合、まずは得意の度合いなども個人差があるということを認める必要があります。個人差を認めると同時に、自分が持つあらゆるスキルの中で、「野球やバスケではなくサッカーが一番得意だったんだ」と認識することが重要です。
このような考えを持つことで、子どもたちが自分自身と他者を比較することなく、自分自身のペースで成長することにもつながります。
まとめ
時代の変化とともに強みを伸ばす重要性が高まっています。一方で、一概に長所だけを伸ばすだけではなく、しっかりと子どもの短所にも向き合い、バランスをとりながら成長することが重要です。
子どもの長所が見つけられない、また短所ばかり見てしまうと困っている方は今回紹介した方法をぜひ参考にしてみてください。