子どもの自己肯定感

子どもの自己肯定感と自己効力感の違いとは?

昨今、「自己肯定感」や「自己効力感」という言葉を耳にすることが多くなりました。

子どもの自己肯定感や自己効力感を育むためには、親の子どもへの関わり方が重要とよく言われますが、子育てをしている方の中には、「そもそも自己肯定感や自己効力感ってなに?」、「親としてどのようなサポートができるの?」とお悩みの方も少なくないのではないでしょうか。

しかし、それらについて解説する書籍やウェブサイトの中には、自己肯定感と自己効力感を混合して伝えている情報が散見されます。それらの区別をせずに、自己肯定感や自己効力感を高めようとすると、逆効果になることもあるため、まずは、この二つの違いについて認識することが重要です。

今回は、自己肯定感や自己効力感とはどのようなものなのか、その概念を正しく整理していくとともに、子どもの「自己肯定感」と「自己効力感」を高めるために親ができることについて、子どもの非認知能力強化プログラム「Five Keys」を運営する井上顕滋さんにお伺いしました。

一般的に自己肯定感と自己効力感は混同されている傾向がある

Q.自己肯定感と自己効力感はどのような違いがあるのでしょうか?

「自己肯定感」と聞くと、多くの方は漠然とその言葉の通り「自分自身を肯定してあげられること」とイメージするかもしれません。しかし、先述したように世に出ている書籍などでは、「自己肯定感」と「自己効力感」を混同した表現が多く、この誤解が子どもの「自己肯定感」の伸ばし方に対して間違った認識を生み出す危険性を孕んでいます。

そこで、まずは自己肯定感と自己効力感の違いについて理解する必要があります。

自己肯定感は自分の「存在」をありのままに受け入れる感覚

Q.まずは自己肯定感について教えてください。

自己肯定感とは、能力や優れた点があるかどうかに関係なく、無条件に自分の「存在」そのものを、ありのままに受け入れる感覚のことです。「他人と比較して優れている」といった相対的な理由からではなく、誰かと比較しなくても、今の自分の全部を「そのままでいい」と認めて尊重する力。これは心の安定や幸福感につながっているため、人生を幸福に生きていくために非常に重要なものとなります。

また、この自己肯定感は自己効力感を作っていくために必要な「挑戦」へのハードルを下げる役割も担っており、自己肯定感が高い人はやり抜く力や失敗しても立ち直る力の基盤ができています。

自己肯定感の高さは、人生のベースとなる心の平穏や幸福感を確固たるものとし、人生そのものをハッピーで豊かに生きていくための大切な感覚として、「心の根っこ」のように自分自身に根差していきます。

自己効力感は「自分はできる」という能力に対する自信

Q.次に自己効力感について教えてください。

自己効力感とは、「自分ならできる」という、自分の能力や目に見える結果に対する自信のことです。失敗を恐れず挑戦する力や、能力やスキルを伸ばすうえで重要なものです。

この自己効力感が高まることで、たとえ失敗しても「自分ならできるはずなのに、どうしてだろう?」と分析して失敗から学ぶ強さが芽生えます。

その結果、成功するまで挑戦を続けられるようになり、「やはり自分はできるんだ」という自信を積み上げていくことができるのです。

自己効力感の大きな役割は、困難に直面しても諦めず、目標に向けて取り組むことができる自信の源であり、能力やスキルを伸ばすうえで重要なものです。

勉強やスポーツなどあらゆる領域において「できた」、「達成した」、「乗り越えた」という自信の下地を作り、挑戦の中で一つでも得意ができると、他のことに対しても失敗を恐れずに挑戦していける力となっていきます。

自己肯定感と自己効力感を正しく理解することが、子どもへの正しいアプローチにつながる

自己肯定感と自己効力感の2つの概念を混同して認識すると、間違ったアプローチを子どもにしてしまうことになるため、しっかりと役割を区別して理解することが大切です。

「自己肯定感」を高める関わり方と、「自己効力感」を高める関わり方も明確に異なるため、次にそれぞれを高める親の関わり方を解説していきます。

子どもの「自己肯定感」を高めるための関わり方

Q.まずは自己肯定感の伸ばし方について教えてください。

子どもの「自己肯定感」を高めるための関わり方を2つご紹介します。

子どもの存在を無条件に肯定する

子どもの自己肯定感を伸ばすには、「成績がよかったから」、「何かができたから」という能力や結果にフォーカスせずに、子どもの存在そのものを無条件に肯定することが何より大切です。

具体的には、「生まれてきてくれてありがとう」、「大好きだよ」などという心を込めた声かけを続けることが、子どものありのままの存在の承認につながり、子どもの自己肯定感を高めます。

ハグをする

声かけに加え、実際に子どもを抱きしめる「ハグ」はただのスキンシップではなく、親の無条件の愛を子どもに伝える愛情表現になります。「ハグ」という行為が「あなたのことが大好きだよ」というメッセージとして、子どもの存在そのものの承認につながるのです。

我が国の子どもは他国と比較して自己肯定感が低い傾向があるという調査結果からも、日本の子育て文化では言葉やハグでの愛情表現をしている家庭が少ないことが推測されます。

しかし、子どもの自己肯定感を育むには、上記に述べたとおり、親からの働きかけがとても重要です。幼少期だけでなく、子どもが中学生・高校生になっても、継続的かつ意識的に子どもに声かけや愛情表現をすることで、子どもの自己肯定感が着実に育っていくでしょう。

参考:内閣府「令和元年版 子供・若者白書(概要版)特集1 日本の若者意識の現状~国際比較からみえてくるもの~」

子どもの「自己効力感」を高めるための関わり方

Q.次に自己効力感の伸ばし方について教えてください。

「自己効力感」は、自分自身の成長や社会で活躍するための原動力となるものです。自己効力感は幼少期に限らず大人になってから積み上げていくことも可能ですが、子どもの頃から自己効力感を高めることで、失敗に挫けず結果が出るまで頑張ることができますし、たとえ成功につながらなくても、ポジティブな気持ちで挑戦し続けることができます。

この子どもの「自己効力感」を高めるための関わり方を、以下に2つご紹介します。

厳しい愛情を持って、挑戦するための背中を押す

新たな物事や目標に挑戦することは、子どもにとって大きな不安を伴います。そこで子どもの挑戦する機会を作るためにも、不安な気持ちを持つ子どもに「あなたならできるよ」と励まし、勇気を出して挑戦するための背中を押すことが大切です。

ある意味で厳しい愛情を持って子どもに新たな挑戦のための第一歩を踏み出させることが、子どもの能力やできることを増やすことにつながり、子どもの「自己効力感」を高めるきっかけになります。

挑戦して「できた」という証拠・成功体験を一つでも多く積ませてあげる

上記のように背中を押された子どもが挑戦したあとは、「よく挑戦したね」、「勇気を出してすごかったね」と褒めてあげましょう。そして、挑戦の結果「できた」という証拠を一つずつ増やしあげることが、子どもの成功体験の積み上げにつながり、「自分はできるんだ」という裏付けが多くあるほど自己効力感が高められていきます。

親が子どもの自己肯定感を下げる行動をとってしまう理由

Q.親はなぜ無意識に子どもの自己肯定感を下げるような行動をとってしまうのでしょうか?

子どもが乳幼児の頃には無条件に「かわいい」と接していたところから、子どもが小学生になると能力やスキルなど、目に見える結果や周囲の子どもと比較した評価や声かけをしてしまう場面が増えていきます。

そうすると子ども自身ではなく子どもの「能力」に対して目が行き、何ができて何ができないかという能力や結果のみにフォーカスして、「できた」ことに対して評価をしてしまいます。

例えば、子どもの自己肯定感を伸ばそうという思いから「算数ができてすごいね!さすがだね!」と能力ばかりをほめてしまうと、子どもは「算数ができるから自分には価値があるんだ」と、ありのままの自分自身の存在を受容されていないという感覚が起こってしまうのです。

親としては肯定的な意図があって子どもにアプローチしているにも関わらず、結果的には子どもの自己肯定感を下げる悲しい関わりに変わってしまいます。このように、親が正しい知識をもっていないことが、親が子どもの自己肯定感を下げる行動を無意識にとってしまう理由です。

自己効力感が高いだけでは不十分

Q. 自己肯定感が低くても、自己効力感が高ければ、自分に対する自信や肯定する気持ちが芽生えるのではないでしょうか?

世の中には、「自己効力感は高く、自己肯定感が低い人」が数多く存在します。このような人は、過去に家庭内の教育により、偏ったビリーフ(自分自身に対する思い込み)が根付いていることがほとんどです。

自分を許容できない状況を埋め合わせるために、必死に勉強をしたり、がむしゃらに仕事での成果を求めて働くことで、自分の存在を証明しようする傾向があります。この傾向は、ビジネスの世界において成功している人にも多く見られます。

仕事において確かな成果を出せるものの、心が満たされなかったり、逆に「できなかった」という現実にあたった時に、途中で燃え尽きてしまったり、鬱状態になってしまう人も少なくありません。

このように、自己効力感が高いだけでは、結果を達成していく途中で燃え尽きてしまう可能性がありますが、自分のありのままを承認する自己肯定感が高い人は、自分の目標に向けて夢中になって上達することが多いため、途中で燃え尽きることがありません。

自己効力感の高さは社会的地位や経済的な成長を促す原動力になりますが、根本的な自己肯定感が低いと、「できる・できない」の目に見える結果に左右されてしまいます。

自己肯定感が高い人は、「できる・できない」に関わらずありのままの自分を受け入れ、無条件に自分自身の存在を肯定することができるため、長期的に人生や目標に向けて幸福かつ前向きに向き合っていくことができるのです。

まとめ

自己肯定感は、人生を安定した心で幸福かつ豊かに生きていくために必要な感覚です。この自己肯定感を育むことができるのは主に幼少期とされているため、子どもを育てる親が正しい知識を持って、子どもに適切に働きかけることが大切です。

そして適切に子どもにアプローチするためには、今回解説した「自己肯定感」と「自己効力感」を混同せず、しっかりと区別することが最も重要といえます。

子どもが無意識に親に求めているのは「無条件にありのままの自分を愛してくれること」であり、能力の有無やできる・できないの結果に左右されるものではありません。

今回紹介した子どもへ関わり方などを参考にしながら、子どもに心をこめた声かけや愛情表現を家庭内でしていくことで、子どもの自己肯定感が高まり、人生をより豊かで安定的に、幸福に生きていく心の土台を整えてあげることが期待できます。 

子育てのとびら編集部
明日から実践できる子育てに役立つ情報を発信していまいります。