「ワーキングメモリー」という言葉を耳にしたことはあるでしょうか?これは、情報を一時的に保持しながら、思考や学習、問題解決を行うための大切な脳の機能です。
子どもたちはワーキングメモリーを使って新しいことを学び、日々の生活を豊かにしていきます。このワーキングメモリーは、適切なトレーニングと習慣によって、鍛えて強化することが可能です。
本記事では、子どものワーキングメモリーを伸ばす具体的な方法や、トレーニングを行う上で注意すべきポイントを解説します。
「ワーキングメモリー」とは?
スターリング大学トレーシー・パキアム・アローウェー氏らの論文によると、「ワーキングメモリー」とは、冒頭でも説明したように一時的に情報を頭に保持する能力で、私たちの考える力を支える重要なシステムです。
ワーキングメモリーは、視覚的な情報、空間的な情報、音の情報、言葉の情報など、様々な情報を一時的に保持することができます。
ワーキングメモリーは、私たちの日常生活でさまざまな作業をこなす上で欠かせない要素であり、勉強や仕事で情報を処理する際にも必要とされています。
例えば、授業の講義を聞きながら内容を理解し、ノートを取りながら新しい情報を記憶する場面などで、ワーキングメモリーは非常に重要な役割を果たしています。
参考:
The Cognitive and Behavioral Characteristics of Children With
Alloway, T. P., Gathercole, S. E., Kirkwood, H., & Elliott, J. (2009). The Cognitive and Behavioral Characteristics of Children With Low Working Memory. Child Development, 80(2), 606-621.
子どもになぜワーキングメモリーが必要なのか
では、なぜワーキングメモリーは子どもにとって必要なのでしょうか。先ほどの論文の内容をもとに4つの観点から説明していきます。
1. 学習能力が向上する
ワーキングメモリーは、容量が大きいほどより多くの情報を保持でき、学習が効果的になります。知識の獲得もスムーズになるので、成績向上につながる可能性があります。
学習においてワーキングメモリーはいわゆる作業台のような役割を果たします。例えば頭の中で計算をする時、数字を一時的に覚えておきながら計算を重ねるのがワーキングメモリーの役割です。
他にも新しい言語を学んでいるとき、短い文章を聞いてすぐに理解する力も、ワーキングメモリーを使っています。これは、聞いた内容をちょっとだけ記憶しておき、それをもとに意味を組み立てる作業です。
要するに、ワーキングメモリーは新しいことを学んだり、問題を解決したりする時に、情報を一時的に「置いておく場所」です。この機能が学びや思考の基礎を支えています。
2. 問題解決能力が向上する
ワーキングメモリーは情報を記憶し、それを活用して的確な判断や解決策を導くために重要な役割を果たします。
例えば、授業中に先生の説明を理解しつつ記憶することができれば、テストの問題をスラスラ解けるようになるのは簡単に想像ができますが、これは大人になっても重要な役割を果たします。
仕事でも日々あらゆる問題に直面しますが、過去に解決した方法やプロセスを記憶しておけば、問題に直面した時でも0から調査する必要がなく、すぐに解決できる可能性があります。
このようにワーキングメモリーを鍛えることで、「解決策の引き出し」を多く持つことができます。
3. 集中力が向上する
ワーキングメモリーは集中力にも深く関係していることがわかっています。情報を一時的に保持する能力を高めることで、注意散漫を防ぎ、課題に集中する力が増します。
例えば、英文を読みながら内容を覚えておかないと、文脈がつながらず、理解が深まりません。このように、内容を記憶しながら次に進む能力が低下すると、勉強においても仕事においても、タスクが滞りがちになり、集中できなくなります。
だからこそ、ワーキングメモリーを鍛え、情報を維持しつつ活用できるようにすることが、集中力を保つためには不可欠です。
このように、子どもにとって集中力を身につけることは、日常生活や学習においてもとても重要です。またワーキングメモリーには個人差がありますが、訓練や練習によって改善することが可能です。
参考:The Cognitive and Behavioral Characteristics of Children With
ワーキングメモリーを伸ばすためにできることは?
以下では、「子どものワーキングメモリーを伸ばす上で効果的な施策をご紹介します。
1. アクションビデオゲーム
テンプル大学の研究によると、ステージをクリアするために最適な行動の選択が求められるアクションビデオゲームは視覚的ワーキングメモリー(VWM)の容量と精度を向上させる可能性があることが示されています。
視覚的ワーキングメモリー(VWM)は、視覚情報を一時的に保持する能力であり、様々な作業や情報の処理において重要な役割を果たしています。ただし、長時間のアクションビデオゲームのプレイには欠点や悪影響がある可能性があるため、注意が必要です。
2. トランプゲームの神経衰弱
神経衰弱についても、視覚的ワーキングメモリ(VWM)を必要とするゲームであるため、VWMの容量と精度の向上に寄与する可能性があります。
ゲームプレイ中には、カードの位置や情報を記憶し、ペアを見つけるために短期的な情報保持と処理が必要とされます。このような作業を繰り返すことで、VWMがより効率的に機能するようになる可能性があります。
また、神経衰弱をプレイする際には、カードを追跡し、一致するペアを見つけるために、プレイヤーへの注意を維持し続けようとします。これにより、注意力や集中力が向上することが期待されます。
3. 脳トレゲーム
脳トレゲームについても、ワーキングメモリーを伸ばすために有効であることが研究でわかっています。最近では、脳トレゲームなどがアプリでも手軽に入手できるようになったので、すぐに実践できるトレーニングです。
ただし、注意したいのは、脳トレゲームが全ての人に同じような効果を持たないということです。それぞれのゲームは特定のスキルを向上させるために作られているため、どのゲームが子どもにあっているかを、いくつか試してみながら見極めることが大切です。
ワーキングメモリーを鍛える際にはいきなり難しい課題を与えず、子どものレベルにあった課題を与えことが重要です。
まとめ
ワーキングメモリーの容量には限界があり、ワーキングメモリーが低い子どもは、学習面で困難を抱えてしまうこともしばしばです。
幸いにも、ワーキングメモリーはトレーニングと習慣によって改善できます。子どものワーキングメモリーを伸ばすことは学習能力の向上や自己管理、集中力の向上につながります。ぜひ、子どものためにも早い段階から対策を取ってみてください。