子どもの思考力を育むことは、社会人として求められる力を鍛えることにつながります。本を読むことは豊かな思考力を育むといわれているため、子どもの読書習慣を大事にしたいと思う保護者もいるのではないでしょうか。
思考力とは具体的にどんなものか、なぜ大切なのか、詳しく知りたい人もいるかもしれません。思考力について具体的に理解することで、より子どもの読書を大切にしたい思いや考えを家族と分かち合うことができるでしょう。
本記事では子どもの思考力と読書がどのように関係するか、読書嫌いの子どもが本を読むようになるポイントをお伝えします。
考える力がより求められる時代に
現代社会は急速に変化しており、特に、AIやデータを中心とする第四次産業革命によって、さまざまな業界や職種において大きな変化が起きています。
そのため、企業が持つべき能力も変化しており、従業員に求められる能力やスキルも変化を求められてもおかしくありません。
こうした変化に対応するために、経済産業省が提唱する「社会人基礎力」はより重要なものとなっています。
社会人基礎力には、課題を見つけ解決する力や、コミュニケーション能力、そして「考え抜く力」が含まれています。特に、考え抜く力は変化に対応するために欠かせない力とされており、社会人として身に着けておきたい力です。
考え抜く力とは、ある問題に対して深く考え、独自の視点や判断力を持って解決策を見出す能力のことです。この力を持つことは、企業においては経営戦略を考えたり、新しいビジネスモデルを構築したりするために必要不可欠です。
また、現代社会では人生100年時代と呼ばれるように、長期的な視野で自己啓発やキャリアアップを行う必要があります。自己啓発においても、考え抜く力は重要な役割を果たすでしょう。自己啓発を通じて、自己の強みを発掘し、さらに能力を高めることができます。
そこで考え抜く力を鍛える方法の一つとして「読書」が重要視されています。読書によって、さまざまな知識や情報を得られるだけでなく、自分自身の考え方や判断力を深めることができるのです。さらに、読書は自分自身の表現力やコミュニケーション力を高めることにもつながります。
企業や個人が変化に対応するためには、積極的な読書習慣を持つことが重要です。読書は、考え抜く力を鍛えるだけでなく、自己啓発やキャリアアップにもつながる大切な手段の一つと言えます。
参考:経産省「社会人基礎力」
読書が思考力にあたえるメリット
社会人基礎力の1つである「考え抜く力」とは、情報や事実を深く理解し、独自の見解を持つための能力を指します。問題解決や意思決定において、慎重に情報を収集し、それを総合的に分析・判断し、自己の立場や価値観に基づいて判断を下すことができる力です。
考え抜く力は課題発見力、創造力、計画力の3つのスキルで構成されており、いずれも社会人やビジネスパーソンに不可欠なものとなっています。
読書はこれらの3つのスキルにもプラスの影響を与えることが複数の研究で報告されています。
1.読書は課題発見力を育てる
課題発見力とは、現状を分析し、目的や課題を明らかにする力のことです。課題を発見するためには、あらゆる視点から物事を俯瞰するスキルが必要です。
科学雑誌「Science」にも掲載されたハーバード大学の心理学者David Comer Kiddらの研究では、フィクションの読書が「心の理論」(他人の視点や心情を理解し、予測する能力)を向上させると結論付けています
他人の視点に立って物事を思考する習慣を読書を通じて身につけることで課題発見力の習得が期待できます。
参考:Reading Literary Fiction Improves Theory of Mind
2.読書は創造力を育てる
創造力とは、新しいアイデアや価値を生み出す能力のことを指します。具体的には、既存のアイデアや概念から発想を膨らませ、新しいアイデアを生み出す能力や、既存のものを独自のアプローチで再構築する能力などが含まれます。
株式会社ベネッセコーポレーションが公開している研究では、幅広い読書が子どもの創造性にプラスの変化があったと報告しています。
創造力ときくと、芸術やデザイン、文学などの文化的な領域を思い浮かべるかもしれません。しかし、ビジネスや科学技術などの実用的な領域でも重要な能力とされています。
創造力を持つ人は、新しい商品やサービスの開発や、問題解決に有効なアイデアを生み出すことができるため、競争社会において優位に立つことができるのです。
3.読書は計画力にも影響する実行機能に良い影響を与える
実行機能とは、目標を達成するために計画を立て、達成するために自分の行動や思考、感情を調整する脳機能のことを指します。
イリノイ大学シカゴ校教育名誉教授のティモシー・シャナハン教授が寄稿しているブログには、実行機能が読解力と密接に関係しており、ワーキングメモリー、認知的柔軟性、自制心などが優れている生徒は、読書家としても優れている傾向にあると述べています。
実行機能は思考力にも密接に関連しており、読書を習慣づけることで実行機能を始め、思考力にプラスの影響を与えます。
このように、読書により読者の視点で捉えることができたり、思考力が鍛えられるのは理にかなっているといえるでしょう。
読書嫌いな子どもへの対応のポイント
子どもに読書をさせたいとは思っても、自分の子どもが読書嫌いだと、どのように対応すべきか悩んでしまいます。
読書が嫌いだからといって、必ずしもまったく本を読まないとは限りません。
イギリスのエジンバラ大学教育学部の論文では、好奇心から学びたいという動機がある子どもたちはノンフィクションを読む傾向があり、物語に没頭したいという動機のある子どもたちはフィクションを読む傾向があるという研究報告を出しています。
つまり、子どもが読書をするには、読書の動機を理解することが重要です。子どもによっては物語を好きなこともあれば、学校の宿題や成績にかかわるという理由で読書をすることもあります。
どのような理由かを知ることで、適切な本を選べるだけでなく、読書の習慣をつけることができるでしょう。
他にも子どもが読書をするようになるためのポイントを4つお伝えします。
参考:Understanding reading motivation across different text types: qualitative insights from children
1.幅広いジャンルやテキストタイプを提供する
子どものなかには、自分のこだわりやお気に入りのジャンルやタイプの本に興味を持つかもしれませんが、幅広く興味を持つこともあるでしょう。
文字だけの小説だけでなく、挿絵や写真が挿入された絵本や図鑑により興味を示すこともあるかもしれません。多様なジャンルやテキストタイプの本を提供することで、子どもたちは自分に合った本を選ぶことができます。
2.子どもたちの興味や好みに応じた本を選ぶ
子どもたちが好きなテレビ番組、映画、またはスポーツチームに関連する本を勧めることも、読書の興味を引き出せます。
サッカーや野球などのスポーツが好きなら、物語のテーマが同じスポーツの物語を、好きなテレビアニメのノベライズ版なども本を読むきっかけになるでしょう。子どもの好きなものや興味につながる本から、読書の習慣がついていきます。
3.読書環境を整える
読書の環境を整えることで、子どもたちが読書に没頭することができます。静かで明るく、座る場所や本棚がある空間を提供することが大切です。
また、子どもたちが自分で本を選ぶことができるように、読書コーナーを設けることもお勧めです。テレビはつけっぱなしにせず見ないときは消すなど、保護者の意識によって最適な読書環境が作られます。
4.定期的に読書の時間を設け、読書習慣を育てる
定期的な読書の時間を設けることで、子どもたちは読書習慣を育むことができます。児童館や図書館の読み聞かせ会や、子どもたちが参加することができる読書クラブに参加したり、保護者同士で開催したりすることで日常で読書の習慣が増えていくでしょう。
まとめ
子どもの思考力を育むために、読書が重要な役割を果たすことをお伝えしました。本を読んで養われる思考力は、社会人に求められる課題発見力・創造力・計画力につながります。
自分の子どもが読書が嫌いでも諦める必要はありません。子どもの興味関心や、保護者の働きかけによって子どもの読書習慣を作ることができます。子どもの未来のために、できることを少しずつ取り入れてみてください。