子どもの自己肯定感

子どもに怒鳴ってしまう?厳しく叱ることも重要。叱る際の注意点も解説

子どもについ怒鳴ってしまったという経験がある方は多いかと思います。実際にセーブ・ザ・チルドレン・ジャパンが実施している調査では「叩いたり、怒鳴ったりせずに子育てをしたいが、実践は難しい」と回答した方は3割でした。

頭では理解しているものの、いざ子育てに直面するとつい感情的になり、怒鳴ってしまいますが、この状態を放置することで、子どもに悪影響をもたらします。

今回は子どもを怒鳴ることでもたらす影響や、その事態を避けるための方法について解説します。

参考:セーブ・ザ・チルドレン「子どもの体やこころを傷つける罰のない社会を目指して」

必要に応じて厳しくすることは決して悪いことではない

子どもがどうしてもいうことを聞かない時に怒鳴ってしまって、「やってしまった」と落ち込む方も多いでしょう。また最近では、教育において叱るのではなく「褒めて伸ばす」という風潮がある中で、怒鳴ったり、厳しい態度をとったりすることは子どもにとってよくないのではと思う方も多いかもしれません。

しかし、タフツ大学の人間開発の教授の著書によれば、愛情のあるしつけは子どもの発達に有益であるとされています。

親が子どもの未来について考え、必要に応じて厳しいしつけを与えることによって、子どもは年齢を重ねるにつれて、自分をコントロールする自己調整能力が高まり、社会にうまく適応できるようになります。

子どもがやってはいけないことをそのまま放置することの方が将来的に問題になるため、「必要な時に強く叱ることは問題ではない」ということをまずは認識しておきましょう。

一方で、日常的にしつけのために怒鳴ってしまっているような場合には、子どもに悪影響を与える可能性があります。以下ではその影響について解説します。


参考:
Damon, W., & Lerner, R. M. (Eds.). (2006). Handbook of Child Psychology: Vol. 1. Theoretical Models of Human Development (6th ed.). John Wiley & Sons, Inc.

子どもを日常的に怒鳴ることの注意点

先ほど、必要に応じて子どもに対して厳しいしつけは必要と説明しましたが、しつけのため、といって怒鳴るなどの行為が行きすぎると逆に悪影響を及ぼします。

以下では子どもを日常的に怒鳴ることによる悪影響について解説します。

感情をコントロールする力に影響を与える

ノースキャロライナ大学スーザン・カルキンズ博士の論文によると、子どもを厳しく叱るなどの行為は子どもの感情をコントロールする能力に影響を与えるとされています。

怒鳴るなどの行動は、子どもが自分で思ったことを表現できないと不自由さを感じさせることにつながります。

子どもにとって「本当はこんな事情があったのに」と伝えたかったにもかかわらず、親が怒鳴ってしまって一方的に意見を通してしまうと、子どもが親に対して意見を言うこともできず、どのように感情を処理すれば良いのかがわからなくなります。

また怒鳴られると感じると、子どもも言いたいことがあっても我慢する可能性があり、感情やストレスを上手くコントロールできないことにもつながります。

コミュニケーション能力に影響を与える

親が怒鳴るなどの行為は、子どもが他人とのコミュケーションにおいても影響をもたらすと考えられています。例えば、友達と協力したり、相手の気持ちを考えたり、自分の意見を表明するなどの行為に影響をもたらすと考えられています。

親が自分の意見を押し通したい時に怒鳴ると、子どももそれを見てまねるかもしれません。また、言いたいことを言って怒鳴られた場合に、「自分の話は聞いてもらえない」と自分の意見を表明することに対して、諦めのような感情を抱くようになる可能性もあります。

参考:
Calkins, S.D., & Bell, K.L. (1999). Developmental transitions as windows on parental socialization of emotions. Psychological Inquiry, 10, 368-372.

Calkins, S., & Bell, K. (1999). Developmental transitions as windows to parental socialization of emotion. Psychological Inquiry, 10(4).

親とのコミュニケーションは子どもの海馬の成長においても重要

子どもにとって親とのコミュニケーションは非常に重要といわれています。ワシントン大学の研究によれば、子どもの学齢期から思春期における母親とのコミュニケーションは海馬の発達に影響を与えることがわかっています。

具体的には、

  • 母親が子どもの感情を理解する
  • 子どもに対して共感する
  • 子どもに安心感を与える
  • 子どもの感情を認識し、それを尊重する

といったポジティブなコミュニケーションをとっていた場合、子どもの海馬の体積がより速く増加する傾向があることがわかっています。海馬の発達が順調に成長すれば、ストレスなどに対処するための対策や、感情をコントロールする力が身につくと考えられています。

親が日常的に怒鳴るなど、一方的に親の感情を押し付けてしまうことで、子どもの海馬の成長に影響をもたらす可能性があると考えられます。

参考:
Katie A. McLaughlin a,∗,1 , Margaret A. Sheridan b,1 , Hilary K. Lambert a a Department of Psychology, University of Washinton, Childhood Adversity and Neural Development: Deprivation and Threat as Distinct Dimensions of Early Experience 

日常的に怒鳴ってしまっている場合の対策方法

子どもに対して必要に応じて厳しく接すること自体は問題はありませんが、日常的に怒鳴ってしまっている場合には対策が必要です。

以下では複数の論文や研究をもとに解説します。

カッとなった時に感情を言葉にして、感情を客観視する癖をつける

ポルトガルのコインブラ大学の研究によれば、母親が怒鳴らず、冷静に対応するためにも「マインドフルな育児」が重要であると提唱しています。

具体的には、子どもと関わる中で親自身がストレスを感じた時に、自分自身の感情や思考を客観視し、子どもに対して冷静に、かつ合理的に対応することで、より効果的な子育てを実践することができます。

もちろん、感情をコントロールすることは簡単なことではありませんが、イライラした時は「あ、子どもがわがまま言っているから私はイライラしているんだ」と言語化することで、より冷静になることができます。

自分の感情の状態を冷静に把握できる親は、結果として育児に対してのストレスを軽減することにもつながります。

親の自己効力感を上げることも重要

ユトレヒト大学の研究によれば、自己効力感が低いと、親のイライラが増し、怒鳴るなどの行動が増える可能性があると指摘しています。

子育てでいう自己効力感とは、親が子どもの育児に自信を持ち、子どもに良い変化を与えられることを確信しているような状態です。

子どもの自己効力感の伸ばし方については、こちらの記事で解説していますが、自己効力感を上げる方法として「他者の成功例を観察する」、「他者からの励ましや支持を得る」など、大人にとっても効果的なポイントが含まれていますので、ぜひ参考にしてみてください。

参考:
Slagt, M., Dekovic, M., de Haan, A.D., van den Akker, A.L., & Prinzie, P. (2012). Longitudinal associations between mothers’ and fathers’ sense of competence and children’s externalizing problems: The mediating role of parenting. Developmental Psychology, 48(6), 1554–1562. https://doi.org/10.1037/a0027719

まとめ

子どもに対して適切なタイミングで厳しく接することは必要です。ただし、感情的になりすぎて頻繁に怒鳴ることは、子どもが大人になったときに悪い影響をもたらす可能性があります。

そのため、最近つい怒鳴ってしまうと感じている方は、自分自身の感情をコントロールしたり、自己効力感を高めるためにも他人の成功事例から学ぶことで、より冷静かつ適切に子どもに接することができるでしょう。

ABOUT ME
この記事の監修者 - 井上 顕滋
31年の経営者経験を持ち、主に教育系メディア事業、人材育成企業、子どもの非認知能力強化プログラム「Five Keys」を運営する財団法人、飲食事業などを経営。 人材育成のキャリアは社員教育からスタートし、成果を上げる中で多くの経営者から問い合わせが増加し、2004年に人材育成企業「リザルトデザイン」を設立。 クライアントの業績に大きく貢献する中で、社員の成果には個人差があることを痛感し、その原因を解明するため、世界的権威である研究者および実践者から最新の心理学と脳科学および「人の心に変化を生み出す最先端技術」を徹底的に学び、実践を重ねた結果、成果とモチベーションの向上を可能にするリザルトプログラムを開発。 また上記「成果の個人差」の真因と、満足度の高い充実した人生を送れるかどうかの鍵が、幼少期(12歳まで)の「親の関わり方」と「与える教育」にあることを発見し、親への教育講座を開催。
子育てのとびら編集部
明日から実践できる子育てに役立つ情報を発信していまいります。