子どもの思考力

子どもの抽象的思考を伸ばすためには?なぜこれから必要なのか?

子どもの抽象的思考は高学年に近づくにつれて発達するといわれていますが、この抽象的思考は、これからの不確実な時代にも役立つスキルです。

「抽象的思考は聞いたことがあるけど、なんだか難しそう」「子どもの頃からトレーニングできるの?」という方に向けて、抽象的思考についてわかりやすく解説した後に、子どもの抽象的思考を伸ばす方法についても紹介します。

抽象的思考とは「共通点を見つけ一般化する」スキル

抽象的思考は、あらゆる物事から共通点を見出し、一般化するスキルのことを指します。例えば、「犬」と「鯨」は住む環境が全く違えど、肺呼吸で卵を産まずに母体で子どもを育てることから、同じ哺乳類の仲間として考えることができます。

このように全く異なる物事から「共通点」を見出す思考プロセスを抽象的思考といいます。その逆の言葉に「具体的思考」があります。

具体的思考は一つの物事をより細かく分解して、抽象的な状態からより明確にイメージする思考プロセスです。例えば「何か楽しいことしたいな」といったフワッとしたアイディアがあった場合、

  • 楽しいことは何か
  • なぜ楽しいことがしたいのか
  • それはどこでできるのか
  • いつまでにやりたいのか
  • 誰かと一緒にやるのか?
  • どのように実現するのか

といったように5W1Hを意識しながら具体的に考えます。

抽象的思考と具体的思考はどちらも社会に出る上では重要なスキルになりますが、変化の激しい時代においては、抽象的思考がより重要視されるようになりました。

抽象的思考はVUCAの時代に求められるスキル

現在のビジネス環境は、これまで以上に変化が激しく、予測が難しい時代になっており、最近ではそのような時代をVUCA(ブーカ)と呼んでいます。

VUCAとは、以下の4つの単語の頭文字から構成された造語であり、将来の予測が困難な状況を示す言葉でもあります。

  • Volatility(変動性)
  • Uncertainty(不確実性)
  • Complexity(複雑性)
  • Ambiguity(曖昧性)

近年AIツール「ChatGPT」が話題になっていますが、人間が予測していたよりも早くテクノロジーは進歩しており、昨日まで当たり前であったことが今日からは当たり前ではなくなる、そのような時代になっています。

そのため、過去の経験やデータは場合によっては役に立たない可能性があり、答えがない状態でもあらゆる物事から共通点を見出したり、本質を見出して課題を解決する力が今後求められます。

以下では抽象的思考を持つことで、どのようなことができるのかについて解説します。

子どもが抽象的思考を身につけるとどのようなことができるのか?

ネバダ大学リノ校ビジネス学部マーケティング学科准教授らの研究をもとに、抽象的思考がもたらすメリットについて以下で詳しく解説します。

不測の事態にも対応できるようになる

抽象的思考を持っている人は、複数の物事から共通の因果関係を見出したり、また複雑な物事を単純化することに長けています。

そのため、子どもが将来社会に出た時に、複雑な課題に直面しても「この問題はつまりこういうことだよね」と自ら噛み砕いて単純化し、より取り組みやすいようにします。

それ以外にも、一つの事象から考えずに複数の物事から共通項を見出すため、全く関係のないように思える事象からもアイディアを借りてくることができます。

例えば「マーケティングと営業は異なる職種だけど、営業のこのスキルはマーケティングでも生かせそうだ」と機転がきくようになり、仕事の成果にもよい影響をもたらすことが期待できます。

コミュニケーションにおいても役立つ

職場のような曖昧な状況が頻繁に起こる環境下では「抽象化したコミュニケーション」が好まれる傾向があるということがわかっています。

例えば、新入社員にとって、初めてやる仕事は右も左もわからず、仕事の本質を掴むまでに時間がかかります。

そのような状況下において、抽象的なコミュニケーションができる上司は新入社員に「営業は友人の悩みを解決するように考えてみよう」などと、相手のレベルにあわせて物事を抽象化し、想像しやすいように伝えることができます。

このように抽象的思考は情報を単純化し、相手に対してより的確にメッセージを伝えることもできるため、職場のコミュニケーションにおいても役立つと考えられています。

リーダーシップにおいても重要なスキル

上記のコミュニケーション能力にも付随しますが、リーダーシップを発揮する際に、抽象的なコミュニケーションが重要であるということがわかっています。

ビジネスは非常に複雑で曖昧であるため、リーダーから発信されるメッセージは多くのメンバーが理解できるように伝えるべきでしょう。

例えば「私たちは証券業界のコンビニ化を目指す」というように、皆が知っている言葉を用いて単純化することで、誰もがトップからのメッセージを伝えることができます。

変化の激しく、答えが曖昧な時代においては、「私たちはこの方向に進むんだ」というリーダーシップが求められ、多くの人を巻き込むためにはどれだけメッセージを単純化し、多くの人に理解してもらえるかが重要になります。

そのような状況において、抽象的思考が役に立つことがわかっています。

参考:

Namkoong, J.-E., & Henderson, M. D. (2019). Responding to Causal Uncertainty Through Abstract Thinking. Current Directions in Association for Psychological Science, 1–5. 

子どもの抽象的思考はいつ伸びるのか?

子どもの抽象的思考は年齢とともに成長することがわかっています。

心理学者のジャン・ピアジェが提唱する発達段階論によれば、子どもの認知発達について以下の4つの段階を経るということがわかっています。

  • 感覚運動期:この時期、子どもの知識は主に感覚から得られる
  • 前操作期:この時期、子どもは象徴的に考える能力を発達させる
  • 具体的操作期:この時期、子どもは論理的になるが、世界に対する理解は非常に具体的になる
  • 形式的操作期:具体的な情報を推論する能力はこの時期も伸びるが、抽象的な思考能力も出てくる

子どもの抽象的思考の発達は一般的には12歳頃から始まるとされています。この時期の子どもは、他人の視点から物事を考えるようになり、また、抽象的に物事を考えたり、二つの物事から共通項やパターンに気づく能力も向上します。

子どもの抽象的思考力はどのように伸ばすことができるのか?

ゴードン州大学の心理学教授ジョセフ・A・メイヨー博士によれば、抽象的思考を鍛えるためには、以下のような問いかけが子どもの抽象的思考を刺激すると考えられています。

物語のキャラクターと現実の人物を比較する

子どもが読んでいる本や見ている映画のキャラクターを取り上げ、家族や友人、歴史上の人物と比較させてみて、どのように似ていて、どのように異なるかを話し合うことが効果的とされています。

例えば「この物語の主人公は友達の中の誰に似ていると思う?どうしてそう思うの?」のように、子どもに対して質問してみると良いでしょう。

部分的な問題を考えさせる 

日常会話で、「犬は友達みたいだ」などと比喩を使うことがあるかと思いますが、これも抽象的思考を使っています。

「犬は忠実な友だちだとすれば、猫は______」のような部分的な問題を出してみて、子どもに答えさせてみることで、抽象的思考を刺激することができるでしょう。

その後、なぜその答えを選んだのかを質問することで、子供は物事の本質を理解し、異なる物事の間で関連性を深く考える機会を得ることができます。

単語関連付けゲームで遊ぶ

マジカルバナナゲームのように、特定の単語(例えば「冒険」)を提示し、子供に関連する他の単語やアイデアを考えさせます。その後、選んだ単語がどのように元の単語と関連しているかを質問します。

例えば、「冒険と聞いて何を思い浮かべる?どうしてその単語を選んだの?」というような問いかけを通じて、物事の関連性への理解を深めることができます。

これらは取り組みやすく、子どもも楽しく遊べるトレーニングなので、ぜひ取り入れてみてください。

参考:

Mayo, J. A. (2019). Analogy-Enhanced Pedagogy: Class Activities to Engage Students in Learning. In Engaged Student Learning: Essays on Best Practices in the University System of Georgia (Vol. 1). Retrieved from

まとめ

抽象的思考は今後の時代に重視される思考プロセスです。一見難しく思えるこの思考法も訓練次第では鍛えることができるので、ぜひ試してみてください。

また子どもの抽象的思考は年齢を重ねるごとに発達していくため、「子どもが全く理解しない」と焦らず、成長の経過を見守りながらサポートしていくとよいでしょう。

ABOUT ME
この記事の監修者 - 井上 顕滋
31年の経営者経験を持ち、主に教育系メディア事業、人材育成企業、子どもの非認知能力強化プログラム「Five Keys」を運営する財団法人、飲食事業などを経営。 人材育成のキャリアは社員教育からスタートし、成果を上げる中で多くの経営者から問い合わせが増加し、2004年に人材育成企業「リザルトデザイン」を設立。 クライアントの業績に大きく貢献する中で、社員の成果には個人差があることを痛感し、その原因を解明するため、世界的権威である研究者および実践者から最新の心理学と脳科学および「人の心に変化を生み出す最先端技術」を徹底的に学び、実践を重ねた結果、成果とモチベーションの向上を可能にするリザルトプログラムを開発。 また上記「成果の個人差」の真因と、満足度の高い充実した人生を送れるかどうかの鍵が、幼少期(12歳まで)の「親の関わり方」と「与える教育」にあることを発見し、親への教育講座を開催。
子育てのとびら編集部
明日から実践できる子育てに役立つ情報を発信していまいります。