大人になると、怒りを感じても、自分の感情をコントロールできるかもしれませんが、子どもはうまく対処できないことがあります。
怒りに対してうまく対処できないと、怒りの感情が攻撃的な言動につながることも起こりえます。今回の記事では、そのような状況を防ぐためにも、子どもが怒りの感情をコントロールできるようになる方法について解説いたします。
子どもが「怒り」を感じるきっかけとは?
まず、子どもが怒りを感じやすいきっかけについて解説します。米国心理協会では、子どもが持つ怒りの正体について、子どもの発達段階に応じて、次のように紹介しています。
生後〜18ヶ月
まず生後18か月までの赤ちゃんであれば、空腹や疲れなど、身体的な不快感が原因で怒ってしまうことがあると説明しています。また怒りの感情は、泣くことで表現していると考えられます。
18~36ヶ月
また自我が芽生えてくる生後18か月~36か月の幼児であれば、自分が世界の中心だと思っており、自分の思い通りにならないとイライラすることがあります。また自分の所有物に対する意識も強いため、他の子どもと物を共有することが、怒りの原因になることもあります。
なお、現在コロラド州立大学において人間発達学の教授を務めるBraungart-Rieker博士らによる乳幼児の観察研究によると、幼児が表現する怒りは成長とともに増加しますが、生後18~21ヵ月頃にピークを迎えることがわかっています。
3~5歳
未就学児である3~5歳になると、自分のことだけを主張するのではなく、友達や兄弟との関係を良い状態に保つことを学ぶようになります。しかし、まだ自分の感情をうまくコントロールできないため、イライラしたときに自分の感情を言葉でうまく説明できないために、癇癪を起こして怒りを表すこともあります。
6~8歳
6~8歳の子どもであれば、公平に扱われていないと感じたとき、拒絶されたとき、罰を受けたとき、誤解されたときに怒ることがあります。その際、他人を傷つけたり、いじめたり、言葉を使って危害を加えることで怒りを示すこともあります。
このように、子どもの年齢によって怒りを感じる部分が変わると考えられています。
参考:
American Psychological Association “What Makes Childr.en Angry”
子どもが怒りと上手に付き合うための4つの方法
ベストセラー書籍である『Turning Tantrums Into Triumphs』〜幼児の癇癪(かんしゃく)を止めるためのステップバイステップガイド〜の著者であり、科学的根拠に基づいた子育てや子どもの発達に関する情報を発信している『Parenting For Brain』の編集責任者でもあるLi氏は、子どもが怒りの感情をコントロールする方法には、
- わき起こってきた怒りに対し、その場で対処する方法
- 怒りを予防する方法
の2つがあるとしています。以下ではそれぞれについて解説します。
参考:Parenting For Brain : Angry Child: How To Deal With Explosive Behavior
わき起こってきた怒りに対処する方法
怒りの感情が大きくなると、脳内で感情を表現する扁桃体が強く影響を受け、さらに前頭前野という論理的な思考を司る部分の機能が低下すると考えられています。そのため、怒りがおさまらない子どもに対し、論理的に諭すことが難しいとされています。
子どもが怒りを感じた場合には、子ども自身が怒りを抑える方法を事前に知っておく必要があり、以下の方法が有効とされています。
深呼吸をして落ち着く方法を習得させる
深呼吸はよく知られている方法の一つですが、すでに子どもが怒り出している時に「深呼吸して」といっても聞いてもらえない可能性があります。
そのため、「怒ってしまった時は一旦深呼吸すると気持ちが落ち着くよ」と子どもが冷静な時に教えてあげることが重要です。また実際に親自身もバタバタしている時や少し感情的になった時に、実際に深呼吸して落ち着く姿を見せてあげることで、子どもにとって良いお手本になることでしょう。
気をそらす方法を教える
私たち大人は「今日嫌なことあったから、好きなものでも食べよう」と生活の中で無意識に感情をコントロールしています。
子どもも同じで、怒りの感情で頭がいっぱいになっている場合でも、注意を別のものに逸らすことで、怒りの感情をおさえることができると考えられています。
「好きなものを食べよう」というように、「嬉しい」、「楽しい」気持ちになれるような物事に注意を向けることが効果的です。例えば、子どもが怒って手をつけられない状態の時に「あなたの気持ちはわかったから、気を切り替えて買ってきたお菓子でも食べなよ」とポジティブな気持ちになれることを与えてあげましょう。
次第に「怒った時、こうすれば自分は落ち着くんだ」と認識するようになるでしょう。
子どもが自分の感情の原因や本音を説明できるようにする
学校心理学が専門の早稲田大学教育学部の本田恵子教授によると、学童期に入った子どもたちが怒りの感情をコントロールするためには、「興奮をおさめる」→「視野を広げる」→「具体的な解決策をとる」の3ステップで進めることを推奨しています。
興奮をおさめる
「興奮をおさめる」ためには、深呼吸をしたり、リラックスできる音楽を聴いたりするなど、先にもご紹介した方法などが役立ちます。
視野を広げる
「視野を広げる」とは、まず怒りの原因を振り返り、なぜ怒ってしまったのか、本当はどのようにしたかったのか、感情の元を探り、偏った考え方が怒りの原因となっている可能性を考えます。その上で、少し異なる視点で物事をみてみたり、考え方を変えてみたりすると、怒りの感情が軽減されることを経験することが重要です。
具体的な解決策をとる
そして「具体的な解決策をとる」とは、怒りがこみ上げてきたときに適切な対応ができるようなスキルを身につけることです。例えば怒りを込み上げた時は、あえて話さず、落ち着くまで待つなど、自分なりの解決策を導けるようになれば、子どももうまく怒りと付き合うことができます。
もちろん、子どもが一人で習得するのは難しいので、子どもの怒りが落ち着いた頃に、子どもに質問して、自分の感情を言語化させてみましょう。「自分で言葉にしたり、人と話すと冷静になれる」と実感させることで、次第に自分でもコントロールできるようになるでしょう。
参考:
本田恵子「感情のコントロールが苦手な子どもたちへのアンガーマネージメント」早稲田大学
子どもの怒りを予防する方法
次に、子どもの怒りの感情が起きないようにするための予防法について説明します。
子どもに注意するタイミングや方法を工夫する
もし子どもに注意したり、「お風呂に入りなさい」と命令することが、子どものイライラの原因の一つになっている場合、それらを言い出すタイミングを工夫することも重要です。
子どもが熱中して楽しんでいる最中に遮られると、怒りを感じる可能性があります。大人でも同じようなことが起きると、イライラしてしまいますよね。
そのため、子どもの状況を見ずに「お風呂に入りなさい!」と言わずに、「このテレビ番組が終わったら、お風呂に入りなさい」と、子どもに準備させることで、イライラする原因を避けることができます。
子どもの睡眠不足や疲労、空腹にも注意する
子どもに限らず、大人であっても、睡眠不足や疲労によって感情的になってしまいます。
もちろん子どもも同じで、機嫌が極端に悪いときは、その背景に睡眠不足や疲労、または空腹を感じていないか、観察してみましょう。もしそれらが根本的な問題である場合は、昼寝を勧めてみたり、間食を取らせるなどしてみましょう。
子どもたちにとって、温かく、安全を感じられる子育てを心がける
親との関係に心理的に安全だと感じる環境で育った子どもは、怒りの感情をコントロールできるようになることがわかっています。
112名の子どもを対象に、恐怖、怒り、喜びの感情の発達について調べた研究によると、特に生まれてから数年間、心理的に安全だと感じる環境で育てられた子どもは、その後、怒りの感情をコントロールできるようなり、逆に親との関係が不安定な環境で育てられた子どもでは、否定的な感情が増加する傾向があるとされています。
癇癪を起こすこと自体を厳しく叱ることも重要
子どもが癇癪を起こすこと自体を厳しく叱ることは、時に必要です。しかし、その叱り方には注意が必要です。
まず、子どもがなぜ癇癪を起こしているのかを理解することが大切です。子どもは自分の感情をコントロールする方法をまだ学んでいないため、様々な感情に振り回されやすいのです。そのため、癇癪を起こす原因を一緒に考え、子ども自身が自分の感情を理解するためにサポートすることが重要です。
叱る際には、その行動がなぜ良くないのかを説明しましょう。例えば、「急に大声を出すとびっくりする人もいるし、お仕事の電話をしてる人の邪魔にもなる」といった具体的な理由を伝えることで、子どもは自分の行動が周囲に与える影響を学ぶことができます。
参考:
Emotional Development in Children with Different Attachment Histories: The First Three Years
まとめ
怒りをコントロールできるようになると、大人になっても役立つことが多くあります。ビジネスの世界では、感情的になって怒るなどの行為は信用を損なう可能性もあるため、子どものうちから怒りの感情をコントロールすることで、周りから信用される社会人に成長することが期待できます。